Ver.幼児化した：Part10 ページ25
side：緑谷出久
＊＊＊
その夜、結局降魔さんは戻らなかった。本人は気にしていないみたいだけど、僕らにはやっぱり違和感があってもやもやとスッキリしない。麗日さんたちも若干元気がないみたいだし、降魔さんの影響って凄いんだな、と変に感心してしまった。
｢降魔はいるか？｣
不意に相澤先生が共有スペースに来た。ソファーで既に寝ている降魔さんを見ると、相澤先生は顔に手を当ててため息をつく。手に持っているピンク色の液体がとぷんと音を立てて揺れた。
｢それ、なんなんですか？｣
｢発目から預かった。幼児化を戻す薬らしい｣
麗日さんがそれを受け取り、降魔さんを起こそうとする。相澤先生は胡散臭そうに顔を顰めていたけど、降魔さんに飲ますことには反対しないみたいだ。大丈夫、なのかな。
なかなか起きない降魔さんはかっちゃんによって起こされた。大きな欠伸をして目を擦る降魔さんはピンク色の液体を見た途端、大きく後退りをする。
｢おら、飲めや｣
｢な、なにそれ…くすり？｣
かっちゃんの手にあるそれに警戒心マックスで、近寄ろうとしない降魔さん。も、もしや……降魔さんって薬嫌い？
ピンク色だからジュースと間違えてもいいくらいなのに、薬って分かるんだ。嗅覚が鋭いのか、はたまた勘がいいのか。
ジリジリと降魔さんが後退りしては、かっちゃんがその分詰め寄るという不思議な攻防を繰り返して、最初に大きく出たのは降魔さんだった。その小さな体躯を活かし、すばしっこく駆け回る。かっちゃんの腕を掻い潜り、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、逃げ回った。
結局相澤先生の拘束具で確保されたけど、あのかっちゃんから数分は逃げ回ってたから、この頃から運動神経は秀でていたんだ。すごいなあ。
｢あうあうあ｣
｢早く飲め｣
かっちゃんに強制的に飲まされた途端、降魔さんは倒れた。幸い、拘束具で拘束されたままだったから、頭を打つとかはなかったけど。
みんなでそわそわとしていると、もくもくと煙が降魔さんから出てくる。煙が視界を白く染めて、それが漸く晴れた頃、降魔さんは元に戻っていた。そのまますやすやと眠り続ける降魔さんに気が抜ける。
｢降魔を部屋に運んどけよ｣
そう言い残して相澤先生は出ていった。麗日さんたちは降魔さんの頬をつついて、楽しそうにしている。
まあ、何はともあれ、降魔さんが戻ってよかった。
ちなみに、後日談だけど。降魔さんに幼児化中の記憶はなかったらしい。
【完】
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作者名：怜
| 作成日時：2018年5月10日 20時
