Ver.幼児化した：Part6 ページ21
※吐血表現注意※
side：緑谷出久
＊＊＊
ご飯を食べ終わって教室へ帰ると、降魔さんはまた囲まれた。朝は怯えていたけど、今はそうでもなくて楽しそうだ。
胸を撫で下ろして席につくと、降魔さんを囲んでいた辺りが騒がしくなった。騒がしいというより、慌てている……？
椅子を倒す勢いで立ち上がり降魔さんの元へ向かうと、赤い何かが広がっていた。辺りに立ち込めるくらりとする鉄の匂い。それは降魔さんの口から垂れていて、猶も吐き出されていた。
｢何があったの！？｣
｢デクくん！分からんけど急にAちゃんが血吐いたんよ！｣
麗日さんが説明してくれたけど、原因が分からない。みんなが慌てているのに対して、降魔さんは慌てずに若干の涙を浮かべて血を吐いていた。その様子を見る限り、なんだか慣れているようだけど、苦しそうだ。
｢…けふっ……うぅ…はあっ…｣
｢降魔さん！？大丈夫！？｣
必死に息を吐きながら、首を縦に振る降魔さんに、僕らは何も出来なかった。そんな時、救世主が現れた。
｢何してんだ、お前ら｣
相澤先生だ。先生なら、何とかしてくれるかもしれない。
｢先生！降魔さんがいきなり吐血してっ｣
｢…はっ？｣
先生は生徒を掻き分けて降魔さんを見ると、目を見開く。けれど、すぐに落ち着きを取り戻して背中を擦り始めた。
｢誰でもいいから、婆さん呼んでこい｣
落ち着いた先生の指示に足の速い飯田くんが駆けていく。暫くして降魔さんが落ち着いた頃、漸くリカバリーガールが来た。
｢はいはい、退きなね｣
その場で軽く診断するその様を固唾を飲んで見守る。降魔さんは既にケロリとしていて、口を濯ぎたいと口を尖らせていた。
｢喉が切れてるわけでもないねえ。病気でもなさそうだ。あんた、何かあるのかい？｣
｢Aね、こせいでてから、ちをはくようになったの｣
そこから拙い口調で説明されたのは信じられないものだった。
なんでも降魔さんの“個性”はその小さな体では持て余してしまうらしく、体を知らずに傷つけてしまう。1日に少なくとも1回は吐血するらしいのだ。
絶句した。確かに降魔さんの“個性”はかなり強力で、デメリットも自分次第で改善できるものだ。でも、そんな強い“個性”が何の苦労もなしに扱えるようになるわけないんだ。
｢ねー、くちゆすぎたい！｣
｢はいはい、いっておいで｣
きゃー、と嬉しそうに走っていく降魔さんに、憐憫の目を向けてしまうのは……彼女に失礼なんだろうな。
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作者名：怜
| 作成日時：2018年5月10日 20時
