1話 ページ1
「百年ほど、鬼殺隊の本拠地に潜り込んで来ます」
Aは綺麗な正座をしたまま、ラジオみたいな淡々とした口調でプレゼンをした。
隣には先程まで生きていた下弦の参が無惨の手によって肉塊へと細切れにされ、下弦の壱であるAは顔面の右半分は血に塗れている。参はつい数分前に殺された。
無惨の言葉を遮ったからだ。頭部がガス風船が破裂したように弾け飛んで他の下弦は「あ、自分もこうなるんだ」と顔色を真っ青にして死期を悟っていた。
けれどもAは人懐こい笑みを浮かべてヘラ、と笑った。
彼は下弦の壱。
整った顔立ちの美青年は鬼には珍しく人懐こい性格で人間社会にも上手く溶け込んでいた。
飄々とした性格で奇天烈な発想で無惨に尽くそうとする行動力も十分にある。彼は表では医師として働いているので資金調達係としても重宝していた為に、気まぐれに殺すのは惜しい鬼だった。
「A」
「はい。無惨様」
ヒリついた空気におっとりした優しいおじいちゃん先生みたいな口調でAは返事をした。
実際に年齢は400歳を超えている。
十二鬼月の中では黒死牟の次に古参だ。
「潜り込んで、それで？ オマエは私の為に何をするんだ」
無惨は皮肉な感じで問いただした。
鬼が鬼殺隊の本拠地に単体で乗り込むなんて余程強い上弦の鬼でない限り無謀な作戦だった。しかも100年も。
Aは冗談を好むが嘘は言わない。
ましてや上司である無惨の前で巫山戯ることは無いに等しい。
だから無惨は理由を聞いた。
「鬼殺隊は育手に鍛えられた剣士の最終戦別を行う山があります。鬼が嫌う藤の花に囲まれた藤襲山に鬼殺隊が生け捕りにした弱い子鬼達を山に放ち、そこで7日間生き抜くことが出来たら剣士として認められるそうです。所謂、憎たらしい鬼殺隊のヒヨっ子の最初の壁になる試験ですね。そこに俺が乱入します」
「…それで、新入隊員を皆殺しにするだけか。そもそも藤の花で囲まれ、産屋敷に管理されている山にどう侵入する気だ」
「いいえ、無惨様。新入隊員は殺しません。むしろ生け捕りにされた子鬼達を俺が全滅させます」
「……」
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作者名：ある | 作成日時：2024年2月25日 18時
