聖杯〜英雄王side〜 ページ18
「──と言う訳です。いやはや参りました。まさか今更死ぬ事が怖くなるなんて思いませんでしたし」
泣いていた姿が、いっそ虚偽であったような顔だ。王たる我の前で傷付いた笑みを浮かべる華苑は、目が笑ってなど居なかった。
「…それで、泣いていたと？」
「まあ、そうですね。大変お見苦しいものをお見せしました」
へらりとして、前よりも掴み所の無い。今までは、まだ人間らしい様子もあったが、それが今では何も感じさせない。
「ふん…」
試しに華苑の腕を握ってみた。女ならば痛がる程の力を込めたつもりだが、眉一つ動かぬ。
「どうしました？」
「…貴様、左の首筋にあった令呪で何を命じた？」
こいつの令呪は、霊体化を命じた右の首筋一つ、我に命じた右腕全てと左腕二つが力を失っていた。服の下までは知らんが、見えている範囲では左の首筋は未だに赤い光を持っている筈だ。だが、それが今では無い。
「あ〜…お気になさらず、と言っても…離してくれませんよね」
「当然だ。王たる我を焦らすでないわ。質問に疾く答えよ」
目を泳がせた華苑は、観念したのか「痛みを」と口にした。
「痛いのは嫌だったので、いずれは遠坂さんに直接殺されるとしても…灼かれて死ぬのなら、痛いのも苦しいのも嫌だなぁ、と」
痛覚を消したか。いよいよ華苑は人間離れしたいと見える。
「…時に華苑、貴様の令呪は後残りいくつある？」
「はい？無尽蔵ですが」
「は？」
「私の体の令呪は、力を失えば別の場所に復元してしまうので、無尽蔵です。後は残りますがね。多分右腕の分はお尻か…うーん、背中、とかですかね」
頭が疲れてきた。この我が。令呪を宿し、パスさえ繋げば複数の英霊と契約が可能であり、無限に復元し続ける。どこまで領域を飛び抜けているのだか。
「華苑よ、今宵の我は寛大だ。正直に答えよ。我が気紛れに、この手に得た聖杯を貴様に譲ると言ったなら──雑種、貴様は何を望む？」
目を丸くし、大いに驚いた華苑は、返答などせずに固まった。似た質問を綺礼めにもしたが、こいつは何を望むのか。憎き魔術師共への復讐？失った血族の蘇生？己の自由？それとも令呪に関する事か？何が返るのかと待っていれば、華苑は目を閉じた。
「ありません」
「ほう？」
「陳腐な言葉ですが、人の世は移り行くものです。私一人の願い一つで、それを曲げたくない。あえて望むなら、私のような子供が二人と生まれない事、ですかね」
その答えは、我の予想を越え、実に退屈だった。
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まつよ - 面白かったです。是非、ステイナイトの時の主人公を見てみたいです。 (2019年5月29日 21時) (
レス) id: 4baad1a05f (このIDを非表示/違反報告)
かなと - 編集画面をよく読みオリジナルフラグをお外し下さい違反です (2019年5月10日 15時) (レス) id: 483535372f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：華苑 | 作成日時：2019年5月10日 11時
