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You.s
やまとの涙を見た時
思わず、半年前の自分の姿と重ねてしまった
最初の3ヶ月はまともに仕事にも行けず
外に出ることすらできなかった
何もせず、どこにも行かず、
一日中家の中でじっと膝を抱えているだけ。
先輩がいなくなってから、私は私じゃいられなくなった
毎日、身なりを整えて満員電車に揺られ仕事へ向かうこと
休日、映画や音楽や本の娯楽に触れること
食事をとること、着替えること、髪の毛を梳かすこと…
そんな当たり前のことすら、全部無意味なことに思えた。
だって、先輩はもうこの世にはいないのに。
人が一人、いなくなっても
当たり前に世界が回ること
何事もないようにみんな歩いていることが
私はどうしても受け入れられなくて
ずっと、頭と心が分離していた
泣いていることにも気づかず
我を忘れたように泣き続けるやまとは
その時の
普通に生きられなくなった私と少しだけ似ていた
そんな私を救ったのが
こうして先輩の元を訪れることだった
ここに来れば、先輩と会えるような気がした
いつものように優しく話を聞いてくれてるような気がした
体温のない冷たく硬い石に手を当て
返事のない話を一人で語って
出るはずがない電話番号に電話をかけて
既読がつくはずのないメッセージを送って
日課だったおはようとおやすみのLINEも
送ることを止められたのはつい最近の話だった
ゆっくり、少しずつ受け入れる努力をした
思い出を振り返り、感情を受け止め
先輩の存在をあるべき正しい時間に置いて
そして自分はちゃんと、"今"に戻ってくる
この半年は、そのために必要な時間だった
自分と、広夢先輩とに、ひたすら向き合う旅のようなものだった
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作者名:沙耶 | 作成日時:2023年1月16日 22時