第145話 袖口 ページ8
劉さんがお屋敷に戻ったのはお昼を過ぎた頃。
私がいた書斎に入るなりいつものようにおどけて劉さんは笑った。
｢いや〜ごめんごめん。お得意さんに飲まされちゃってさ｣
｢劉さん……お怪我とかは……っ｣
｢大丈夫だよ。ちょっと二日酔い気味だけど｣
私は溜まりきった不安と心配と、安堵を押し殺すようにして劉さんに抱きついた。劉さんはそんな私を優しく抱きしめ返してくれる。
私の大好きな劉さんの匂い。
薄荷ともう一つ。阿片窟から戻ってくる時に必ずつけて帰ってくる、恐らく阿片の……____________
｢！｣
劉さんの匂いを確かめるように鼻先を劉さんの胸元に寄せると、微かにした“別の香り”。
薄荷でも、阿片でもない、いつもと違う匂い。
私の知らない匂い。
｢名前？｣
何も言わない私を不思議に思った劉さんは、心配そうに私の名前を呼んだ。顔を上げるよう添えられた劉さんの左手。
その左手に触れられた瞬間に気づいてしまった。
｢……やっぱり……劉さんは嘘つきです｣
｢え？｣
｢本当はお店に行ってないんじゃないですか？｣
｢ちゃんと行ったさ｣
じゃあ、なんで……なんで……____________
｢なんで阿片の香り、しないんですか？｣
劉さんの目を見てそう聞くと、瞳を薄らと覗かせたのが分かる。“裏の商売”に関わったことはない。何度かついて行きたいとお願いしたけれど、劉さんに止められていた。
名前に阿片の匂いがついてはいけない、と。
阿片窟から帰ってきた劉さんは必ず薄荷の匂いとは別の香りをつけて帰ってきていた。初めてその匂いを知った時これが阿片の香りだと分かった。
でも、今している香りは薄荷でも阿片でもない。
甘ったるくて、嫌な匂い。
｢はは、名前は鼻が利くね｣
笑ってそう言う劉さんは左手で私の鼻にそっと触れる。また誤魔化されたような気がした。
｢……それから、指輪も｣
｢指輪？｣
｢外したんですか？……それとも、どこかに置いてきたんですか？｣
朝帰りした劉さんの左手の人差し指には、私が以前あげた銀色の指輪がはめられていなかった。
今気がついたのか、劉さんは私からばっと手を離して袖口をあさりはじめる。
｢あれ〜ないな〜……もしかしたら部屋に、｣
｢部屋？｣
｢あ｣
｢……｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1227人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
古畑のねこ(プロフ) - oemi200174さん» こちらこそ最後までお読み下さり、本当にありがとうございました……！現在｢溺愛、死｣のその後のお話を執筆しておりますので、良ければ是非読んで頂けると嬉しいです……！ (2022年4月18日 15時) (
レス) id: f94598afd5 (このIDを非表示/違反報告)
oemi200174(プロフ) - 最後までありがとうございました！素敵な作品に出会えてよかったです！これからも応援してます！！！！ (2022年3月20日 0時) (レス) @page50 id: bdeac365d5 (このIDを非表示/違反報告)
古畑のねこ(プロフ) - しののしさん» ありがとうございます……そう言って頂けてすごく嬉しいです。これからも頑張ります！ (2022年1月8日 23時) (レス) id: f94598afd5 (このIDを非表示/違反報告)
しののし - 最高です。更新楽しみに待ってます。 (2022年1月1日 12時) (レス) @page26 id: 969dc0e871 (このIDを非表示/違反報告)
古畑のねこ(プロフ) - アリアさん» ありがとうございます！素敵な最終回になるよう、頑張ります！ (2021年12月12日 0時) (レス) id: f94598afd5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：古畑のねこ | 作成日時：2021年9月25日 4時
