罪の名前 Ⅱ (ページ10)

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｢…どうしたの?｣

全然集中出来てないよ。

と少し困ったように眉を下げるAさん。

すみません、と一言いうと謝らなくていいよと少しおどおどしながら言う。

多分、ありがとうもすみませんもこの人はあまり言われたことがないんだと思う。

感謝すると少し恥ずかしそうに、謝ると困った表情をする。
謝らないでよと小さい声で言う彼女にはっとしてまた謝ってしまう。

｢なにか、あった?｣

それでも不思議だった。

彼女はよく人の目を見る。
今だって。

その目を見れば、何でも話してしまいそうな気がする。
その少し色素が薄く茶色っぽい目に、柔らかそうな声質に、話せばなんでも受け止めてくれそうで
一緒に悩んで考えてくれそうで。

でも、貴方がそうやって言うから皆貴方を頼ってしまう。

貴方は誰かに頼ったことがあるだろうか。

誰かに頼られたことはあっても、

頼って欲しいと優しい声で力強くしっかり目を見て言われたことがあっただろうか。

｢…Aさんも俺を頼ってくださいね｣

こうやって貴方の相談を聞いたことがある人は嘗て何人いただろうか。