罪の名前 Ⅱ (ページ20)

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なんとか、作間くんの番に間に合うようにトイレからでる。

ﾀﾞﾝｯ

「…ぁ、すいませ…」

下を向いていたせいで前にいる人に気が付かなくて

ぱっと見ると、そこに居たのは

「猪狩、さん」

猪狩雄登さんだった。

私からしてみれば最悪のタイミングだった。

猪狩さんは顔を歪めるけれど、私にしか分からない本当に一瞬のことだった。

昔から苦手なんだこの人は。

「大丈夫ですか、桜木さん」

絶対2人の時は見せないような顔を見せるのはきっと、色んな人が周りにいるから。

すみません、と一言振り絞った声を出しながら横を通ると

私の右腕を握って、耳に近づけて言うんだ。

「あれ、A遅かったね」

うん、と一言。

椅子に座ってもその震えはまだ止まらない。

もうすぐ彼の番だと言うのに。

いつもそうだ。

自分の事で精一杯なんだ。

いつも自分だけが不幸だと思っている。

______俺がAに音楽の楽しさ教えてあげるよ

ねぇ、蒼弥今どこにいるの。

私まだ分かんないよ。

音楽が楽しいと思えない。

まだ、あなたが好きだったものを共有できてない。

あなたの気持ちが知りたくて

あなたの気持ちを分かろうと思って

この道に進んだのに、あなたは私の隣から消えていった。

あなたを失った私に残ったものは何も無かった。

ねぇ、誰か助けて。

助けてよ。