罪の名前 Ⅱ (ページ18)

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意外にも瑞稀くんのお弟子さんは、とても明るい子だった。

そしてどちらかというとお師匠さんの方が緊張していた。

でも、いざ奏でてみるとどうだろう。

会場の空気は一変してあの子に引き寄せられる。

うん、今年は凄い。

凄い子が現れた。

誰もがそう思うだろう。

私たちの代も言われてきたけれど、この代も凄そうだ。

懐かしく感じる。

皆が置いて行かれるまいと自分たちを鼓舞していた時を思い出す。

「あの子も好きなのね」

その言葉は人々の歓声と拍手でかき消されたけれど。

「流石、浮所だね」

「瑞稀の指導が良かったんじゃないの?」

というと彼は静かに首を振る。

「いいや、あれは飛貴の努力と素質だよ。俺は何もしてない。場所を与えて、少しアドバイスしただけでそれ以上の物を作り出すんだ。正直同じ楽器を扱ってる人としては怖いくらいだよ。」

怖いくらいに成長する。

客観的に物事を見ることが出来る瑞稀が言うのだ。

その場の4人は息を飲む。

「もし、猪狩がいたら…

浮所に楽譜を作って上げていただろうね」

"猪狩"という言葉に顔を引き攣らせることしかできなかった。

おい、という声が何処からか聞こえた。

でも段々周囲の言葉は遠くなっていく。

私の意識が飲み込まれていく。

私のせいだ。

私なんかのために。

___もう書けない

______何も浮かんでこないんだ

_________苦しい、苦しいよ

___________曲を作れない俺に存在価値なんてない

私のせいなの。

全部、全部全部全部全部全部全部

私が壊した。

私が君を壊したんだ。