罪の名前 Ⅱ (ページ12)

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ある日突然、私を椅子に座らせてピアノを弾いてそれを真似しなさいと言ってきた。

間違えると、違うとただ一言。

今までの母はどこに行ったのかと思うような変貌っぷりについていけなかった私は4日目高熱を出した。

流石に、熱が出た3歳の子にピアノをさせるわけが無いと思っていたマネージャーさんも私でさえもびっくりした。

私もその事はよく覚えている。

凄く体が重たくて頭が痛くて、でもこうしなさい、ああしなさいと言われるまま

何も感情を抱かずに弾いていた。

ただ無心で。

その後の3歳の時の記憶はない。

稀に、とても強い衝撃があった時にその年の記憶がすっぽり無くなることがあるそうだ。

私が次覚えているのは7歳の時の頃の記憶だった。

もうその時には、何も感情を出すことなく弾けていた。

楽譜通りに。

それ以上でもそれ以下でもない。

きっとそれが正しいのだと理解していたから。

これを弾けば解放されると思っていたから。
みんなと遊べると本気で思っていたから。

でも今なら分かる。

きっと母は私に遊ぶことなんて許さなかった。

私は、ピアノが嫌いだった。

だから尚更真面目にやっていたんだと思う。
早く終わるように、自分の感情が壊れてしまう前に。

そして小3の時にはもう多分色んなものを弾けるようになっていた。

リビングに置いてある賞状もトロフィーも表彰楯もその時の私には必ず貰えるおまけでしか無かった。

それが増える度にいつ私はこの呪縛から開放されるのだろうかと、ただただ待つことしか出来なかった。

待つことしかできなかったんだ。

3歳からどれだけピアノを弾いていただろう。
考えたくもないくらい譜面を見て鍵盤を触っていたような気がする。

そんなある日、突然母が失踪した。

当時の私はその事実を母の母。
私からしてみればおばあちゃんに当たる人から聞いた。

失踪、なんて小3にはその2文字では意味が分からない。でもただその一言だけ言われた。

祖父母もマネージャーさんも先生も私を可哀想だと色んな人が私を可哀想だと言った。

でも、私には死んだと直接一言も言ってくれはしなかった。

きっと言いたくなかったのだろう。