アテナの鏡【inzmGO】 (ページ8)

今日:4 hit、昨日:14 hit、合計:3,210 hit

◆ ページ8

「部員ですので、部活動をしに来ただけの話です」
「部員だと……！？」
「はい。フィフクセクターからの指示で、雷門サッカー部に所属する運びとなりました」
「そんな勝手に……！？受け入れられる訳がない！」
「そうでしたか。貴重なご感想として、承らせて頂きます。これからどうぞ宜しくお願いいたします、キャプテン」
「っ……！」

　フィフクセクター？
　語尾を疑問形にして呟くその声は、足元からした。不思議に思い視線を下げると、そこにはうんと小柄な少年が、不安げな表情を浮かべて立っていた。彼は近くにいる一年生と思しき少女と顔を見合わせる。少し遅れて松風もその二人の会話の輪に入ったのを見ると、どうやら三人は現在の雷門サッカー部がどの様な状況であるか、もしかすると日本サッカー界の体制ですら把握していない可能性が高かった。
　緊迫した空気の中、一人が震える声で神童に話しかける。セカンドチームのキャプテン、一乃七助だ。

「何にせよ……、セカンドはもう終わりだ。俺ももう辞めるよ」
「……、分かった」

　神童は微笑み、立ち去ろうとする一乃と、彼に追随した青山を見送る。バツの悪そうな顔で私を睨んだ後、彼らは先程の水森らと同じくサッカー棟を去った。
　フィフクセクター側からすればこの大量退部自体は、非常に都合が良かった。見境なしに入部希望者を受け入れ部の運営費を逼迫させている雷門の方針は、あらゆる不良の温床となる。
　今年からフィフクセクターの人間による入部テストを実施し、クリアした者に入部の許可を出す予定であった。即ちセカンドチームが存続できない程の壊滅に追いやるつもりはなかったのだが、ご愛嬌だ。剣城さんの顔に泥を塗る様な発言はしてはならない。
　肌がひりつく程の静寂に包まれたミーティングルームだったが、その時間は長くは続かずに済んだ。

「残ったのはこれだけか」
「監督！音無先生！」

　私や松風達が、道を譲るべく自動ドアの前から退く。音無先生と呼ばれた女性教員は、雷門サッカー部の顧問だ。彼女らは退部者が出る事を予め覚悟していた様であったが、それでも残った雷門サッカー部の部員の少なさに愕然としている。

「はい。ファーストの九人……これで全員です」
「そうか。……で、お前達は？」

　青年の瞳が私達を映した。

「初めまして、黒雲一角と申します。お会い出来て光栄です──」

　円堂守監督。