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返答に迷った私の代わりと言う訳ではないだろうが、後ろにいた男子生徒が手を挙げた。
「神童は保健室で休んでます」
聞き覚えのある声に振り返る。そこにいたのは霧野蘭丸だった。一年時より雷門サッカー部の一軍でディフェンダーとして活躍していると事前のデータには記載されていた。
整った顔に加えて桃色の髪を二つに結った彼は、学ランを着ていなければ女子生徒と見紛う容貌だ。先程話題に挙がった為ちらと確認したのだが、サッカーの実力とその持ち前の整った容姿を買われた彼は、スポンサー企業のCMに全て出演していた。キャプテンの神童と同じ学年で華があるとくれば当然だが、ただのサッカー少年をアイドル化させる現サッカー界の歪んだ実状をやはり遺憾に思う。
彼と一瞬目が合うが、苦々しく口元を歪めて視線を逸らされる。今朝の一件を考えれば妥当な反応だろう。
恙無くホームルームは終わり、始業日ともあって放課後はすぐにやってきた。ついぞ神童は教室に戻って来なかったが、霧野や担任が慌てていない様子から病院へ搬送されたなどの大事には発展していない様である。
神童の監視と雷門の管理。それが私と剣城さんに課せられた仕事だ。そして聖帝直々に指示を下された以上、今日は後者の任務に重きを置かなくてはならない。
雷門イレブンがどう動くか。談笑する人々を避けながら、私はサッカー棟へと向かった。
サッカー棟につくと、ミーティングルームと思しき部屋から大勢の笑い声が聞こえてきた。練習が始まっていてもおかしくない時間だと思ったのだが、グラウンドの方面からは人の気配がしない。今朝の事態について話し合いをしているのだろうか。
「だとして、……笑い声? 」
不思議に思いつつ部屋へ近づくと、センサーが反応し自動ドアが開く。そして一瞬の内に水面を打ったかのごとく静まり返った。
視界に入るのは松風天馬と、彼の胸倉を掴む男子生徒。長身と浅黒い肌が特徴的な水森竜也だ。試合中の怯えた表情は見る陰もない。
「今朝とは随分様子が違いますね、水森君」
私の質問に舌打ちを返して、彼は部屋を後にした。それに続いてマネージャーやセカンドチームの面々が足早に立ち去る。
「皆さんが思いの外元気そうで安心いたしました。今日の内に笑い声が聞けるなんて、流石は雷門イレブン。大敗後のメンタルケアも一流なのですね」
「何しに来た」
神童の怒気を孕んだ声に隣の松風が肩を震わせた。
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しけ(プロフ) - 予備肉さん» ごめんね! (12月27日 2時) (レス) id: 73f24c4202 (このIDを非表示/違反報告)
予備肉 - 読みにくい (12月27日 2時) (レス) id: a7f9da8f5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しけ | 作成日時:2023年7月6日 23時