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「何がしたい……? 」
自陣営に戻っても他の味方にパスも出す様子がない。
松風に近づく雷門ディフェンスの霧野へ、私は二人程マークを向かわせる。すると彼は大きく旋回して再びこちらへと攻めてきた。
意図が読めた。
松風はドリブルでボールをキープしたまま、後半を終える気だ。彼の体力がそこまで持つとは思えないとはいえ、そうすれば勝てはしなくとも負傷者は出ない。
私は素早くセンターサークルへと戻る。イレブンバンドに指示を入力しつつ剣城さんに目を向けると、彼も察したらしい。松風を追い詰めるべくゆっくりと指定の場所に歩を進めていた。
「そう上手く行くかよ」
パチン、と剣城さんが指を鳴らすと、黒の騎士団が松風を囲った。センターサークルに沿って等間隔に人が配置されている。松風は宛ら袋の鼠といったところだ。
イレブンバンドが黒木氏からの指示を受け取る。
松風天馬を潰せ。
「松風天馬。その顔、気に食わねえ」
真っ先に動いたのは剣城さんだ。他の皆は薄笑いを浮かべて次に起こる惨劇を想像する。
「くだらねぇんだよサッカーなんて! 」
怒気を帯びた声と共に、彼の背から黒い炎が立ち昇った。
徐々にその炎は形を成していく。重たく光る鈍色の甲冑。大剣と大盾。赤い外套を翻す。兜の奥にある目は見えないが、こちらを睨むプレッシャーだけは痛い程伝わってきた。
「これが俺の化身──剣聖ランスロットだ」
人の作り出す気が昂ぶり絶頂を迎えた時、その力が形となって現れたものが化身。発現させる者はシードの中でも珍しく、一般的に化身は眉唾ものの都市伝説として語られる。化身が強いのか、はたまた化身を出す者が強いのか。卵が先か鶏が先か。とにもかくにも、化身使いには化身使いでしか対処できない。
「ぐあッ……! 」
剣城さんのスライディングで松風が突き飛ばされた。伏したままの松風を皆が冷たい視線で刺す。
一人で戦っているも同然だ。既に雷門イレブンは戦意を喪失している。
「最後まで……やらせてください……」
絞り出した彼の声は痰混じりだった。こちらまで聞こえてくるのが不思議になる程に小さな声。
「無茶だ、壊れてしまうぞ! 」
「戦いたいんです……! 最後まで……、最後までやり抜けば、きっと道は見え」
ランスロットが弾いたボールにより彼の言葉は途切れる。松風の腹部を抉る様なシュートは、彼を再び地面に伏せさせた。返ってきたボールを足元で剣城さんが転がして遊ぶ。
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しけ(プロフ) - 予備肉さん» ごめんね! (12月27日 2時) (レス) id: 73f24c4202 (このIDを非表示/違反報告)
予備肉 - 読みにくい (12月27日 2時) (レス) id: a7f9da8f5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しけ | 作成日時:2023年7月6日 23時