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「ホント!? やったー! 」
松風の必死の説得がやっと実を結んだのか、感慨深い……。睨まれ怒鳴られ、ここまで長かったなぁ。とはいえ日数で考えたら私は松風の半分くらいしか剣城に付き纏ってはいないのだが。
「これからもっと雷門は強くなるね! 」
「ああ! ……反田はさ、あの塔子さんって人とどんな話をしたの? 」
「え……っと、普通に、やりたい事とか話してたよ」
「そうなんだ。帝国で鬼道さんと難しい話をしてたから、反田大丈夫かなって心配してたんだ」
「そうなの? ありがと松風」
「……革命とか選挙とか、大人の人達が考えてる事は俺にはまだよく分からないけど」
松風がボールを拾い上げる。彼の湖面の様な瞳がそれを映した。
「たださ、俺達は皆サッカーが大好きだって事なんだ。それだけは分かってる」
自由なサッカーを求めた結果、彼は自然の成り行きでレジスタンスの旗手として動かなくてはいけなくなった。分からない、と言うとおり自分の立場に混乱しているのだろう。
(私は私で大変ではあるが……、)革命の中核となっている松風をはじめとした雷門の皆は今どんな気持ちなんだろうか。要らぬ責任感などを抱いてはいないだろうか? 速水先輩とかは、それはもう目も当てられないくらい狼狽している姿が想像つく。
特に松風は雷門がフィフスセクターに逆らうきっかけを作った張本人でもあるのだ。
もしかしたら不安なのかもしれない。
「よし……松風! 」
「わっ、何!? 」
「特訓再開しよ! 」
至近距離で松風の瞳を覗く。
「私も革命とかよく分からないけどさ。折角こうしてサッカーできるんだから! 円堂さんも言ってたじゃん、楽しも! 」
彼は少し間をおいて破顔し、うん、と返事をした。
サッカーで革命? いまいちよく分からないけど、松風が責任を感じて楽しくなさそうな顔をするのは、私、嫌だな。
そんなんじゃ本気でサッカーと向き合えないでしょ。
太陽が地平線に姿を隠し始めると、グラウンドを使っていた子供達が疎らに帰路につきだした。
それを見計らって私と松風はドリブル練習を切り上げてグラウンドを使った一対一に特訓内容を変更する。
「うわっ!? 」
「ふふーん。そんなんじゃ私は止められないぞー! 」
「くっそー……! 反田はドリブルも上手いね」
「伊達にファーストシードやってませんから! 」
悔しそうに私と対峙する松風。
楽しい。
楽しい。
楽しいな、サッカーって──
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作者名:やに | 作成日時:2022年9月11日 21時