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一方雷門サッカー部には別の問題が起こっていた。
「反田が転校する!? 」
神童が反復する。
「ああ。ところでその典子本人の姿が見えないけど」
「随分急だな」
静かな部室に円堂の落ち着いた声がやけに響く。不安げに彼を見上げる音無と、固唾を飲んで見守る雷門イレブンに、宇都宮は淡々と説明した。
「今朝決まったんです。転校先は聖堂山。全国有数のストライカーが集まる場所で、本格的に彼女を育てようと聖帝がお決めになりました」
「……そうか。本人はどう言ってるんだ」
「まだ確認は取ってませんけど、シードである以上聖帝のご指示に逆らうなんて選択肢はありません」
シードならね──宇都宮は意味深長に言ってみせる。この場にいる全員が分かっていた。
彼女はサッカーがやれるならば、まして雷門と戦えるのならば喜んで転校を受け入れるだろう。
「去年通りの大所帯なら別ですけど、控え含めて試合成立する人数ギリギリの雷門にシードが何人もいても勿体無いですから。それとも君が代わりになるかい? 剣城君」
サッと松風の顔が青くなった。話を振られた当の剣城は冷静な態度を崩さず宇都宮を睨む。
「俺はもうシードじゃねえ」
「分かってるって。ちょっとした雑談」
「反田も剣城も転校なんてさせないッ!! 」
宇都宮の言葉を遮るようにして松風が一人怒鳴る。その様子を神童や他のサッカー部は少し離れた位置で見ていた。
「君がそう思っていても、他の皆は違う意見を持っているかもよ」
「え……」
「じゃあそういう事ですから、円堂さん」
「分かった」
「円堂監督!? 分かったって……! 」
宇都宮は松風の言葉を背にしつつ部室から出ていく。
「そんなあっさりと、さっきのフィフスセクターの言う通りに反田の転校を認めちゃうんですか!? 」
「……」
「折角全国大会に勝ち進んだのに、こんな形で仲間を失うなんて嫌です。俺、アイツと一緒に雷門でサッカーがしたいです!! 」
「天馬。周りをよく見ろ」
促されて視線を落とすと、西園がいた。そして松風と目が合うやいなや反射的に逸らされる。
そしてその態度に何より驚いたのは西園本人だった。反田が出ていくのは嫌だし、自分だって松風の様に堂々と彼女を仲間だと叫びたかった。しかし本能が拒絶してしまう。それは何も西園に限った話ではない。
今の雷門に反田典子の居場所は、ないのだ。
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作者名:やに | 作成日時:2022年9月11日 21時