▼ ページ41
化身とは強くなりたいという気持ちの現れだ──ベルセルクの容貌は、いつぞやの剣城の発言を真っ向から否定する。
男性体の形をとるその化身には節足動物らしき特徴があった。肋骨が浮いた上半身には申し訳程度の毛皮が纏わせてあり、首元には先端に針がついた縄が巻き付いていて、それが武器ではなく背中から伸びた化身の一部だと気づくのにはそう時間がかからない。何故ならその縄は一目で臓器と分かる形状だからだ。
「グぅっ……！ 」
剣城が押し負けまいと呻く。
ベルセルクに殴られたランスロットの甲冑は、捏ねられた粘土かの如く凹んでいた。
「剣城とこうやってサッカーするの、久しぶりだね！ 」
反田がそう無邪気に笑うと、ベルセルクが連動し腕をランスロットに振り下ろした。熱を帯びた拳が大剣ごとランスロットの甲冑をドロリと溶かす。
ゴッドエデンで何度も見た光景だ。あの時と違うのは、彼女が化身を利用した必殺技を使える様になっていた点だけ。
「マイクレイドル」
反田がそう呟くと、ベルセルクは地面に消えた。正確に言うなら、溶けた。
透明感のある黄金色の液体と化したベルセルクが剣城をランスロットごと包み閉じ込めている内に、飛ぶ様な軽快な足取りで走る。彼女の行く手を阻もうにも、溶けたベルセルクがフィールドにいるほぼ全員の足元を掴んで離さない。
「典子ーッ！ 」
信助が藻掻きながら叫ぶが、彼女には届かなかった。一瞥もせず松風の真正面へと向かいお馴染みのリップ音を鳴らす。
クライムキス──だが、今まで見てきたものとは数段レベルが違った。距離があるというのにシュートの威力は衰えるどころか増していく。
松風が化身を出して身構える。言葉の説得はもう試合再開前に嫌というほど試みた。けれども今の反田に声は届かない。
「俺がここで止めて、止めて止めて……！ 何度でも、反田のシュートを受け止めるしかない！！ 言葉で駄目なら、サッカーで伝えるんだ！！ 」
「先輩！ 」
突然狩屋が鋭い目つきで霧野に声を掛けた。驚いたのは霧野だけではなく、隣で見ていた天城も普段穏やかな狩屋の豹変に目を丸くしている。
「何ボサッとしてんですか！！ 」
シュートブロックしなきゃでしょ──狩屋が指を曲げた手を構え、蛍光色のネットを張った。それに慌てて合わせた霧野、天城のそれぞれのブロック技がクライムキスの威力を削ぐ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 29人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：やに | 作成日時：2022年9月11日 21時
