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「あれ、おかえりー。遅かったな」
「ゼェ……ハァ……ああ、……ハァ……」
「なんでそんな疲れてんのよ？ 」
浜野先輩の明るい声に涙腺が緩む。
流石に海王学園も試合前にはあまり大きな騒ぎを起こしたくはなかったらしい。私達が控室に逃げると、殴り込んで来る事なく引き返した。
「……、ちょっとな……」
試合前にいらぬ混乱を招くと考えたらしい。倉間先輩は海王学園に追われていた事も、どうして追われたのかも説明しなかった。
「監督」
「ん、どうした倉間」
「今日のスタメン、俺の代わりに典子を入れてください」
息を整えた倉間先輩は私をチラと見てから、そんな提案をする。今日のフォーメーションはツートップで剣城と倉間先輩がフォワードとしてスターティングメンバーに選ばれていた。それをこの直前に変更してくれと頼んだのだ。
「どうした？ まさか体調が優れないんじゃ」
「ちげーよ。ただベンチから確かめたい事があるだけだ。……いいですよね、円堂監督」
神童先輩の言葉を否定し再び円堂さんへと判断を仰ぐ倉間先輩。
「分かった。典子、聞いたな？ 倉間のポジションに入れ」
「良いんですか！？ 」
「チッ。……今回は譲ってやる。その代わりしっかり点取れよ」
「はい！ 任せてください！！ 」
「……ああ」
倉間先輩はその後の円陣でもどこかうわの空な調子だった。
それを見た私は何となく嫌な予感を感じつつ、グラウンドへと足を踏み入れた。とにかく出番を譲ってもらった以上は働かなければ。
審判がコインを弾き、手の甲に収める。
「裏だ」
「なら表」
審判の手の甲には運悪く裏面を上にしたコインが乗っていた。浪川は指を空に掲げて少しの間眺める。私は彼が風向きを見ているのだと遅れて気づいた。
「ボールを寄越しな」
浪川が考えた結果どうやら今日の風向きはあまり試合には影響が出ないようだ。彼はボールを乱暴にサークル内に置き、神童先輩を睨む。
「俺達は前半こちら側のコートを使わせてもらう」
「ああ。どっち使おうと変わんねえよ。お前達が負ける結果もな」
「どうとでも言え。試合の結果は終わるまで分からない」
神童先輩は冷静に(いや、ちょっとだけ怒ってるかもしれないな、この感じは。)浪川へ言葉を返した。
『さぁ両チームともポジションにつきました！ まもなく試合開始となります！ 海王のキックオフで試合開始です！ 』
決勝戦の始まりを告げるホイッスルが鳴った。
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作者名：やに | 作成日時：2022年9月11日 21時
