▼ ページ24
「どうして……」
松風は葵ちゃんからドリンクボトルを受け取りながら溜息をつく。もう何度も私からボールをぶつけられているせいで酷いところじゃ内出血している様だ。痛みから、という感じではないが彼の表情は焦りの色が滲み、苦々しい。
「典子、再開しよう。今度の相手は俺だ。天馬は第二グラウンドで他の皆を見学しつつ少し休め」
「まだやれます！ 」
「これ以上典子のボールを受けたら明日の練習にも響くだろう。いいから大人しく保健室で氷嚢を貰って来い」
「はい……」
「行こ、天馬」
後ろ髪を引かれつつも葵ちゃんに付き添われて松風がこの場を後にする。
「松風……」
「あの様子じゃいくらやっても一緒だ。肩に力が入り過ぎている」
「そうですね、……やっぱりプレッシャー感じてるのかな」
「……始めるぞ！ 」
神童先輩が雄叫びと共にマエストロを発露させた。化身の習得からたった一、二ヶ月しか経っていないというのに彼の化身は力も持続時間も着実に増している。
先輩の蹴りと連動してマエストロが腕を振り下ろした。
「っ……！ 」
ボールへの反応が遅れた。もっと詳しく言うならば私の反応が後手になるくらいのスピードが出ている──帝国戦を経て、試合を通じてマエストロが強くなっているんだ──！
これは化身を出さなきゃ対応できない。
体温が上がる。
溶ける。
「──神サマッ！！ 」
茜さんの悲鳴に私は口角を下げた。私の化身が、炎が、内へと戻っていくのを感じる。
「おい！ 大丈夫かよ神童！ 」
私は視野を邪魔する土煙を消そうと腕を振る。徐々に晴れた視界には神童先輩が腹部で、私がさっき蹴ったボールを受け止めている姿が映った。
球の回転が収まりそれが足元に落ちると同時に神童先輩も芝へと膝を付く。一頻り咳き込んだ後、彼は頬を伝う汗もお構いなしに私へと問いかけた。
「さっきのが、……お前の化身か」
「はい！ 」
神童先輩へと手を差し出すと、彼は小刻みに震える腕を伸ばして私の手を取った。恐らく衝撃で痺れているのだろう、引っ張り上げると足元が不安定で危ない。見かねた茜さんが駆け寄ってきて彼の体を支える。
「やっ、と見れた……が、悔しいな。今の俺じゃボール止めるのでも精一杯だ……！ 」
「……」
「だが漸くスタートラインに立てたぞ」
「え？ 」
「次はお前の化身とぶつかってもマエストロを消さない。そしてその次はお前の化身に勝つ」
「……！ その意気です、先輩！ 」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 30人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：やに | 作成日時：2022年9月11日 21時
