Ｎｏ．１２【inzmGO】CEN (ページ13)

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「そうなの？案外簡単だから、今度お家で作ってみて？」

　え？ ……え！？
　え！？(言葉にならない。)
　二の腕に浮かんだ鳥肌を必死に無視して私は口の中を一旦空にする。こんなに喉が通行を拒否したのは小さい頃に風邪薬が粉から錠剤に変わった時以来だ。
　私はテリーヌの美しい緑の層をジッと睨む。どう見ても野菜ベースなのにどこからこんな野生動物の臭いが？
　待てよ？偶然私の人生で一番苦手な食べ物がテリーヌってだけで他の人はこれを美味しいと感じるのかもしれない。

「どお？天馬君。おいし？」

　夏未ちゃんの言葉に釣られて視線を横にやると、松風が真っ青な顔で目に涙を浮かべていた。固く結ばれた唇からはエビフライの尻尾が覗いている。やけに静かだと思ったが松風は松風で戦いの真っ最中の様だ。

「いっ！」

　松風が小さく呻く。どうやら円堂さんに足を蹴られたらしい。円堂さんの顔に脂汗と血管浮き出てるのを見た松風の口から、エビフライの尻尾がテーブルへと落下した。
　まさか……。

「っお……！美味しいです！」

　私は全力で首を縦に振って同意すると、不安そうな顔の夏未ちゃんが笑顔になる。

「良かった……！じゃあもっと持ってきちゃうわね！」

　離席する夏未ちゃん。ここぞとばかりに私と松風は円堂さんにこの状況を訴える。

「監督、この味」
「男なら黙って食え……」
「っあ……！？」
「旨いと思えばなんとかなる」

　そのまさかだった。ひょっとしてこの料理全部テリーヌレベルなのか！？

「ほら典子、おにぎり食え」

　円堂さんが私の目の前へ、山の様に積まれたおにぎりの皿を置いた。

「ヒエッー！」
「なんとかなるの使い方間違ってます……」

　松風が涙を浮かべてガックリと肩を落とし顔を伏せる。
　とはいえ折角用意して貰ったのだ。残したり露骨な態度を取っては失礼で……、私は震える手でおにぎりを掴み勢い良く口へと入れる。

「あれ」
「旨いだろ？」
「美味しいです！！」

　塩っ気も丁度よく、テリーヌの後というのも相まって抜群に美味しく感じた。松風も半信半疑の様子でおにぎりを食べる。

「ホントだ美味しい！」
「だろ？夏未のおにぎりすっげー旨いんだ」

　何でも、最初はやはり塩辛かったらしい。それがサッカー部のマネージャーとして選手に振る舞う内にここまで美味しくなったと。
　あ、愛だ……！
　私はこの話を聞いて、結婚の本質がなんであるかをほんのちょっぴり知った気がした。