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「着いたわよ、典子ちゃん」
思い出に浸っていたが、音無先生の声で意識が覚醒する。
「試合に出て疲れただろうし、今日はゆっくり休むのよ」
「はい！ 」
「それだけ元気ならもう大丈夫そうだな」
霧野先輩はそう言って笑った後、自然な流れで耳打ちする。
「後で少し時間くれないか」
何やらただ事ではない雰囲気に否とは言えず、とにもかくにもキャラバンから降りた。
「皆、今日はよく頑張ったな！ 次はいよいよ決勝だ。相手が誰であろうと、全力で戦い抜くぞ！ 」
「海王学園と青葉学園、どちらかが次の対戦相手になるわ。明日以降また対策を練って練習しましょう」
サッカー棟のミーティングルームで円堂さんと音無先生の話を聞いていると、またしても懐から電話が鳴った。
「マナーモードにしとけよ」
倉間先輩に注意され、私は慌てて携帯の電源を切る。
「誰からなの？ 」
「えっと……」
隣に座る狩屋君が小声で訪ねてきた。
「フィフスセクター？ 」
「ち、違うよ。……前にお世話になってた人から」
「ふーん。そ」
聞いてきた癖に半ば聞き流されてムッとする。
「にしても青葉学園とは交流があるけど、海王学園は聞いた事無いな」
「えぇ。Ｂブロックは勝敗指示の通りに試合が進んだから、実力は未知数。だけど帝国と入れ替わったのが青葉学園だって事を考えたら」
「……海王学園もフィフスセクター側とかなり癒着があると見た方が自然ですね」
霧野先輩と音無先生の会話の後部屋が静まり返る。
「だが今日の試合で、剣城が本当の意味で雷門の一員になった。この調子でいけば剣城だけじゃない、色んな奴らが以前のサッカーをしたいと思う筈だ。そんな奴らを増やしていく……苦しい戦いだが、今を乗り越えればきっと本当のサッカーが取り戻せるんだ！ 」
「円堂監督……」
「お前達なら出来るさ。そして何より、全国の舞台でサッカーがしたくはないか？ 」
全国──北海道から沖縄まで、多くの中学生サッカープレイヤーが集まるホーリーロード。そうだ私はそこでサッカーをする為にシードになったんだ。
「日本中から強い奴が集まって、ソイツらとサッカーが出来る。ワクワクしないか？ シードが何人いようと関係ない。俺達のサッカーを、雷門のサッカーを楽しもうぜ」
ミーティングが終わると私は松風に後から木枯らし荘へ向かうと伝えて、霧野先輩と二人、サッカー棟に繋がる通路のベンチに腰掛けていた。
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作者名：やに | 作成日時：2022年8月26日 1時
