Ｎｏ．１２【inzmGO】BEORC (ページ30)

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場を冷やかすだけ冷やかして黒木は消えた。

「剣城……、その、ごめん。俺……」
「……別に」
「……でも、俺感じてたのに。剣城のサッカーが苦しんでるの。剣城にシュートをぶつけられる度俺、何故か凄く悲しくなってたんだ……」

　続いて立ち去ろうとする剣城。それを追う松風。雲によってテラスに影が差した。外で遊んでいる子供達の声だけが明るく響いてくる。

「待ってよ！今、分かった。剣城のサッカーが苦しいって言ってたんだよ」
「……馬鹿かお前」
「剣城も本当のサッカーをやりたいんでしょ！？一緒にフィフスセクターと戦おうよ！」
「だったら兄さんの脚はどうなる」
「ぁっ……それは……」
「世の中にはどうにもならねえ事もあるんだ。お前なんかに何が分かる」

　冷たく突き放された松風は、立ち去る剣城の背を黙って見るしかできなかった。

　優一さんと約束をした後、私はある病室に向かって歩いていた。

「えーと２３８、にーさんは……あっ！」
「あっ、典子！」

　廊下の窓辺で黄昏れていた太陽が、跳ねる様にしてこちらへと走ってくる。私の抱えていたサッカーボールを見ると再び「あっ」と声を漏らした。

「僕のサッカーボール典子が持ってたんだ」
「返すの遅くなってごめんね」
「いいよそんなの。僕に会いに来てくれたの？」
「半分はそう」
「あれ、他にも用事あったんだ。どこか悪いの？それとも友達が入院してる？」
「友達のお兄さんが入院してるんだ。その人と話す事があったから来たの」
「へぇー」
「ねえねえ太陽、サッカーしようよ！まだ面会終了まで時間あるでしょ？」
「えと、ごめん。今日は駄目なんだ……」
「そうなんだ。具合悪い？」
「いいや。検査前だから、激しい運動は控えなさいって」
「大変だね」
「もう慣れたよ。物心ついてから、ずっとこんな感じで生きてきたからね」

　太陽の目線はずっとサッカーボールからズレない。

「でも辛いでしょ。サッカーしたいって、顔に書いてある」
「……したくてもさ、しょうがないだろ」
「……そっか」

　分かる、というのはきっと烏滸がましいだろう。けど彼の気持ちは、サッカーをやりたい気持ちは私と何ら変わらない。

「じゃあ明日も来るよ。明日が駄目なら明後日も。だったらサッカーできるよね」
「いいの？僕は嬉しいけど、雷門サッカー部は次準決勝なんでしょ。練習しなきゃいけないんじゃない？」
「うっ」

　まさか私がこのセリフを言われる日が来るなんて。