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「何の真似だ! また俺をつけて来たのか!? 」
剣城はテラスに松風を連れてくると、乱暴に突き飛ばして怒鳴った。
「ご、ごめん。俺はただアルティメットサンダーを完成させるヒントを聞きたくて」
「ヒントだと? 」
「うん。皆も思ってるよ、剣城なら完璧にアルティメットサンダーを完成できる筈だって」
アルティメットサンダーは現時点で完成していない事を剣城も把握していた。そして自分以外に完成させる可能性があるのは神童、次いで倉間だろうと。
ある日、神童が円堂の不在の隙を盗み、反田にアルティメットサンダーの最後のキッカーを任せてみた事があった。
『アルティメットサンダー!! 』
彼女がそれを蹴り返す事は容易だった。だが、剣城や円堂の予見通り、彼女が蹴ったボールは
タクティクスの完成には剣城が必要不可欠とこの時チームの全員が悟ってしまった。
剣城はそんな経緯を見ていたからこそ、こうして松風が付き纏う事が予想できていたのにまんまと尾行させてしまった自分に苛立っている。
「……知った事か。俺は二度と雷門中でプレイする気はない」
「どうして? 万能坂の試合では本気のサッカーを見せてくれたじゃない」
「……」
黙って立ち去ろうとした剣城に、聞き覚えのある声が気味悪い程優しく提案した。
「教えてあげたら良いではないですか。君が雷門でプレイをしない……いえ、できない理由を」
「黒木さん……! 」
いつからそこにいたのか、松風が尋ねる間もなく男はつらつらと語りだす。
「あれは六年前の事です。木に引っかかったサッカーボールを取ろうとした剣城君が転落し、その下敷きになった兄の優一君が脚が動かなくなる大怪我を負った。さぞ無念だった事でしょう、彼はサッカー留学の話まで出る優秀なプレイヤーでしたから……」
「ッ……」
「自分のせいで怪我をした可哀想な兄の為、彼は手術代を作ると決めたのです。我々への献身を以ってね」
「まさか、それで剣城はフィフスセクターに」
「フフ……。また彼が雷門の味方をしたらお兄さんの脚は治せません。それでも彼にサッカーを強制するのですか? 」
「黒木さん、やめてください」
「君の事を想って彼に教えてあげたのですが……、フフフ」
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作者名:やに | 作成日時:2022年8月26日 1時