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宙舞、鯉!/ Raggie ページ40

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「Aくんッスか。」
「よく分かるね。」

彼は気配に敏かった。大抵、獣人とは雖も察知能力は極めて常人と変わらない。だから背後から忍び寄れば飛び上がる。けれども彼には一切猫騙しが通じない。微かな息遣い、足音、微量な魔力濃度で判別しているらしい。彼は蜃気楼から此方を覗くかの様に鋭利な視線を寄越した。

「気配の隠し方が巧過ぎるんで。」
「別にそういうつもりは無いんだけどな。」

神使が破顔う様な不気味な表情で彼は犬歯を見せ付けた。矢張り獣人は獣人であれど肉食獣。一つ間違えれば、肩の骨を砕かれそうな気配がある。同類だろうが、共喰い。彼は狡猾な鬣犬だ。朝食代わりに肉を削ぎ取られても文句は言えぬ。彼は潰れたKQTの黒箱から煙草を一本取り出した。

「火、ある?」
「勿論。」

物陰。校舎裏。人目に付かない場所。僕は彼の襟首を掴んで乱暴に引き寄せた。彼の表情が驚愕に満ちる前に唇を煙草の先に添わせた。彼との距離は僅かだ。朝摘みのオリーブの瞳が泡沫を蔑視する。刹那にも満たない時間が流れて僕は彼と距離を取った。彼は人差し指と中指の第一関節付近に煙草を挟むとミントグリーンの瞳を軽く伏せて丁寧に息を吸う。

「あ、これ好きかも。」
「意外。甘いの好きなのか。」

緩慢に呼吸する様子が普段の彼と掛け離れている気がして何故だか興味深い。彼は何方かと問われればせこせこと動き回っている印象が強いので、気を休めた姿が新鮮だった事もあるかもしれない。彼は味わう様に煙を吸った。彼は17歳なので未成年者喫煙だが、此処は天下のNRC。憲法も法律も存在しない監獄島である。今更彼が吸ったって誰も止めるものはいやしない。彼の皮の厚い掌から視線を外し、地面に横たわる輩に目を向ける。急所を狙った様で完璧に気絶していた。後半刻は猫跨ぎの様に転がっているだろう。

「それで?何の用ッスか。」
「タルティーヌ、ご馳走するよ。」

彼をエスコートすべく手を差し出せば、不服ながら手を重ねる。彼の計算し尽くされた悪戯がやはり愛嬌だと思う辺り、僕も捻じ曲がっているらしい。先日貰ったブルスケッタを思い出しながら他のお茶請けも考える。クッキーが良いかな。彼にも一つ働いて貰わなければならない。

宙舞、鯉!/ Raggie→←檸檬酒と氷灯籠/ Kalim


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鵯(ひよどり)(プロフ) - toraさん» 勤勉なる原書様、ご機嫌麗しく御座います。もう一つの方のコメントも大変有難うございます。お気に召していただき光栄に御座います。様々なカテゴリーを無造作に飛び回っていますので、いつかまた貴殿のお気に召す作品を認められたらと思います。 (2022年3月6日 2時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
tora(プロフ) - 何故、星に色がついていないのですか??好き。貴方が書かれる文章とても好きです。 (2022年3月5日 23時) (レス) id: 57d5a3265f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鵯(ひよどり) | 作者ホームページ:  
作成日時:2021年11月29日 20時

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