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檸檬酒と氷灯籠/ Kalim ページ38

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「あ、美味しい。」
「気に入ってくれたみたいで良かったぜ!」

僕は今夜彼と舟の上で漂っていた。熱砂の国の夜はよく冷える。温かな火を灯しつつ、彼と戯れに飲食していた。芳醇な紅茶の匂いが彼から漂う。魔法瓶につめられているお陰で温度の変化が緩やかになっている様だ。彼が私と熱砂の国で屋形船(貸切)に乗る理由は単純だ。

「チョコレートも食べていい?」
「いいぜ!好きなだけ食えよ!」

卓上の中心に積み上げられたチョコレートはルンモレ社の高級品だ。鮮やかな装飾と造形は何処か毒々しい。ラベンダー色の柔らかな色合いを爪で拾い上げれば爽やかな麝香が広がった。コーティングに香料を混ぜ込んでいるらしい。一度口に含めば、まろやかな味わいが広がる。

「ね、如何して此処なの?」
「話し辛そうだったからな。」

からり。グラスに注がれた氷がぱちん、と弾けた。ゆらゆら揺れる舟の上ではグラスの中身もよく揺れる。グラスの中の檸檬が夜空の揺籠の様だった。僅かに浮いた透明に瞬きして束の間の安寧を楽しむ。僕にも矜持があるのだ。また皿へ手を伸ばして無造作に一粒摘み上げた。

「まあね。」
「何かあるんだろ?話してみろよ。」

チョコレートコスモスが唇に落ちた。彼の銀幕の淑女の瞳に気圧された事もある。抑も彼に打ち明けねば始まらない事でもあった。秘密裏に行う為、彼は態々此の場を用意したと見受けられる。僕は勿体振って渋々とした表情を演出し乍ら口を開く。

「シーシャの件だけど。」
「あー!それか!聞いてるぞ!」

彼は思い出した、と言わんばかりに声を張り上げた。しかし、周囲に人は居ない。彼と私だけが此の広い川を独占している。設置された氷灯籠の炎がふわり、と揺れる。密室に近い状況で僕達は暗く冷たい話をする。霧の中の円舞の様に軽やかに明るく狂い乍ら。

「何か分かった?」
「おう!……あれ、流してたのお前の国だ。」

真面目腐った表情で彼は告げたが、予想通り過ぎて詰まらなかった。先日ルークが矛を向けた時点で粗方予想が付く。彼は王宮外れの暗殺家業者だ。落ちたものだと思う。即ちやはり此度の一件は貴族が糸を引いている。別件だと片付けるには矢張り不自然過ぎるのだ。

檸檬酒と氷灯籠/ Kalim→←四角い街、猫の声。/ Ace


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鵯(ひよどり)(プロフ) - toraさん» 勤勉なる原書様、ご機嫌麗しく御座います。もう一つの方のコメントも大変有難うございます。お気に召していただき光栄に御座います。様々なカテゴリーを無造作に飛び回っていますので、いつかまた貴殿のお気に召す作品を認められたらと思います。 (2022年3月6日 2時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
tora(プロフ) - 何故、星に色がついていないのですか??好き。貴方が書かれる文章とても好きです。 (2022年3月5日 23時) (レス) id: 57d5a3265f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鵯(ひよどり) | 作者ホームページ:  
作成日時:2021年11月29日 20時

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