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四角い街、猫の声。/ Ace ページ37

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「会長、お届け物です。」
「ありがとう。会室の冷蔵庫に褒美があるよ。」

黒髪の美しい少年は同じ1年A組のユーリ・アインズであった。彼が会長と呼び慕い、慇懃に首を垂れるのはA先輩である。外が冷え切っていた為かユーリの頬は薄桃に色付いていた。柔和な微笑みは男女問わず骨抜きにする春の妖精の様だ。薔薇紅茶の唇がぬべらかに香って隣を通り過ぎる。

「何すか、それ。」
「面倒事。開けてみると良い。」

彼は夢の中の空の様に淡い指先で美し過ぎる封書を差し出した。まるでパンドラの箱から希望だけ抜いて来ましたみたいな毅然とした様子で此方に向けるものだから渋々受け取ってしまった。封蝋は無い。封もされていない。オレは戦々恐々としながら中身を拝見する。

『なかったことに』
「うわっ!」
「痴れ者め!」

ずばん、と聞いた事もない様な凄い音が聞こえた。一拍遅れて窓硝子が砕け散る音が散乱する。気付けば、彼が身を乗り出して卓上に片足を掛け、左手に鉄矢を握っている。時速400km/hに対応出来るのは彼が獣人の中でも特に速い種に属するからだろう。

「Comme je l'attendais!」
「Merci. C'est un mauvais divertissement.」

僅かに声が低くなって夕焼けの草原特有の言葉で喋られて何を会話しているのかは全く分からなかったが、2人が完璧な笑みで向かい合っている事から不穏である事は理解した。彼は投げられた鉄矢を卓上に突き立てると花が咲く様に狂気的な笑みを浮かべた。

「内通者は君だね?」
「オーララ。君からはやはり逃れられないね。」

ルーク先輩が其処に佇んでいた。衣服から油の染みた臭いがする。どうやら龍の住む峠通りを通って来たらしい。つまりオレたちとは全く違うルートから彼を探り当てたらしい。一触即発よりは未だ穏やかな空気がペトリコールと共に漂った。

「あ、雨。」

しとりしとりと天気雨が降り出した。時雨が甘やかに優しく夢でも歌う様に四角い街を染めてゆく。誰かが呟いた言葉が鼓膜にぐわんぐわんと反響していた。彼等は両者柔らかに紳士的な笑みを浮かべるばかりだ。ただ彼のくっきりと開いた瞳の熱が印象に刺さったまま引き抜けない。何処かで猫の鳴き声がした。

檸檬酒と氷灯籠/ Kalim→←四角い街、猫の声。/ Ace


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鵯(ひよどり)(プロフ) - toraさん» 勤勉なる原書様、ご機嫌麗しく御座います。もう一つの方のコメントも大変有難うございます。お気に召していただき光栄に御座います。様々なカテゴリーを無造作に飛び回っていますので、いつかまた貴殿のお気に召す作品を認められたらと思います。 (2022年3月6日 2時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
tora(プロフ) - 何故、星に色がついていないのですか??好き。貴方が書かれる文章とても好きです。 (2022年3月5日 23時) (レス) id: 57d5a3265f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鵯(ひよどり) | 作者ホームページ:  
作成日時:2021年11月29日 20時

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