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ひしゃげた鉄塔/ Sebek ページ34

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賑やかな彼の声に打ち付けられて彼の性格を誤解している人は多い。彼は元来からして隙の無い男である。そして決まりに文句を問わない人格者であった。僕は彼をある程度気に入っていた。嘘が吐けぬ性分が痛手である為、勧誘した事は無かったが。さて、僕等が今居るのは学園内に仰々しく設置されている、こぢんまりとした礼拝堂である。

「座らないのかい?」
「いえ、失礼します。」

彼は金の瞳を困惑に歪ませながら僕の隣に座り込んだ。雪の温度が軽やかに滑る礼拝堂は他に誰も居らず冷え切っている。暖房器具も無い極寒では、己の体温が頼りである。体躯の大きな彼が小さく縮こまる様子は愛嬌のあるものであった。僕は手を重ねて分からぬ何かに祈りを捧げた。

「で、マリーとリリアーノヴェルド卿、どちらの差金か聞いても?」
「御二方からだ。」
「御仁の御考えはいつに無く崇高だね。」
「先輩!此処は禁煙です!」
「そんな決まりは無いよ。今まで此処で煙草を吸う奴が居なかっただけだろう。NRC生は意外とお行儀が良いからな。最も奔放な僕を嫌うのも必然だ。」

魔法で爪先に炎を翳して煙草の先へ近付ける。僕が煙草を吸うのは相手を油断させる為だ。真面目で人当たりの良い生徒の裏の顔は誰しもが密かな期待を抱く。謂わば秘密の共有だ。此の心理操作が果たして何処迄彼に効くのかは未知数だが。甘いチョコレートの香りを楽しみながら小さめに作られた薔薇窓を仰ぐ。余談だが、薔薇窓は下から順に物語が展開しているので、下から見るのが正しい。

「気に入らないかい、色男。」
「……一度も嫌った事はない。」

煙草を口から離して、ふ、と息を吐いた。白い煙がじっとりと重く漂っている。神を信じていない訳じゃない。神を恐れているのである。だから御前で巫山戯た態度を取る。どうか僕を嫌ってくれと嘆願しているのだ。僕が数多へ行った様に緩やかな微笑でキャロルを口遊み、勝目の無い逃走劇を。甘言で誘惑して安心で絆し、磔台の上に逆さ吊りにして。死に戦慄く僕の首を斧で殴打される刑罰を渇望している。けれども神は赦すのだ。非道な獣の頭を愛撫する。ひしゃげた僕が彼の瞳に映った様な気がした。僕はぱちん、と瞬きして思考を切り換える。

ひしゃげた鉄塔/ Sebek→←昏き空の下で/ Lilia


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鵯(ひよどり)(プロフ) - toraさん» 勤勉なる原書様、ご機嫌麗しく御座います。もう一つの方のコメントも大変有難うございます。お気に召していただき光栄に御座います。様々なカテゴリーを無造作に飛び回っていますので、いつかまた貴殿のお気に召す作品を認められたらと思います。 (2022年3月6日 2時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
tora(プロフ) - 何故、星に色がついていないのですか??好き。貴方が書かれる文章とても好きです。 (2022年3月5日 23時) (レス) id: 57d5a3265f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鵯(ひよどり) | 作者ホームページ:  
作成日時:2021年11月29日 20時

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