昏き空の下で/ Lilia ページ32
#
「おや。また随分早いな。」
「いらっしゃい。」
13会議の様にきちりとした着こなしで現れた彼に室内は戦線恐々としていたが、僕は特段恐れる事は無かった。普段の愛くるしさを装う彼の方が異常であって本来は此方である。きちりと着こなした軍服には剣も挿さらず、暗器も仕込まずだが、視線一つで殺して仕舞える程に隙が無かった。
「A、一つお願いがあるんじゃが。」
「何かな？」
彼の為に用意した椅子が使われる様子は無い。其処まで老体でもあるまいし、人間に換算したら20歳前後であるから間違いでも無し。彼は真っ直ぐ此方に歩み寄ると有無を言わさぬ軍人の眼差しで私を伺い見た。人間離れした赤色の瞳孔がじっとりと此方を見詰める。
「儂は貴族言葉に慣れておらん。故に軍敬語で進めさせて貰いたい。粗暴で粗悪な言い回し等もあるが、決して無礼を働きたい訳では無い事をご承知頂きたい。」
「相分かりました。構いませぬ。貴君が無闇を働くとは考えられませぬ故にこのまま続けさせて頂きましょう。では早速本題ですかな。」
「良い。拗れる前に先手を打つぞ。」
魍魎の牙が覗く。赤い舌が炎の様にちらりと揺れた。今回の議題は今後の学園について。既に水面下で事は進んでいる。各寮長が隠密に寮生に呼びかけ、今後の派閥に分かれている。オンボロ寮の寮生は稀有で既に渦中にある。此のまま見過ごす事も出来るが、其のままでは何れにせよ僕等も生贄の途を辿る。彼の口からの報告次第である。
「では、結果を聞かせて頂こうか。」
「うむ。儂ら副寮長会議の結果は保守側。寮長会議の結果は保守側。円卓会議の結果は保守側の全会一致であるぞ。生徒会側は如何か。」
「同上である。」
「良い。では先手を打たねばならぬ。何せ彼奴にも今度が最後の機会だ。何か策はあるか。」
「先日、監督生が訪ねて参りました。」
彼の瞳が、ぐ、と窄められた。肩肘をつきながら気怠げに返答する僕は憎たらしいに違い無い。ただ、面白くなりそうである。此れは戦争だ。友人の命を救う為だけの茶番劇。全校生徒が己の全てを掛けて大人を逆さ吊りにするだけの復讐劇。何にもならない、正義にもならない。悪の華が互いを貪り喰う生存競争だ。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鵯(ひよどり)(プロフ) - toraさん» 勤勉なる原書様、ご機嫌麗しく御座います。もう一つの方のコメントも大変有難うございます。お気に召していただき光栄に御座います。様々なカテゴリーを無造作に飛び回っていますので、いつかまた貴殿のお気に召す作品を認められたらと思います。 (2022年3月6日 2時) (
レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
tora(プロフ) - 何故、星に色がついていないのですか？？好き。貴方が書かれる文章とても好きです。 (2022年3月5日 23時) (レス) id: 57d5a3265f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
