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夕焼けは君の味/ Director.S ページ26

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夕焼けが赤い。冬の夕焼けは短くまたよく冷える。彼はただじ、と窓辺を見上げるばかりである。旧校舎の生徒会室からも夕景は映えている。其れを監督生である彼は凝視しているのだった。先ずは御目に描かれない石膏の乳白色の肌が滑らかで、アーモンド型の一重が雪で靡いた様にす、と伸びている。薄い唇は薔薇の乙女其のもので何とも精悍な顔貌であった。

「監督生。」
「何でしょうか?」

礼儀正しい彼は珍しい神の如き美貌と相俟って生徒の一部から恐怖の対象と見做されていた。己の恐怖心から彼を攻撃する者もあったが、彼が激昂する事もなく、柔らかい微笑で首を傾げる為に背筋によく分からない畏怖が這って二度と関わる者は無かった。

「君は如何して此処に?」
「理由が無いと来てはいけませんか?」

スイートピーが綻ぶ様な鮮やかな微笑みを浮かべて首を左25度に傾ける様子は薔薇の公爵夫人然としている。確信犯であれ天然であれ恐怖の美貌である事は間違いない。レディグレイに落とした蜂蜜と檸檬の香りが彼の思惑を曇らせてゆく。燦然に滲む向こう側で金の耳飾だけが揺れていた。

「此処は世界一危険な場所だよ。」
「でもきっと世界一綺麗ですよ。」

彼は鉄窓のステンドグラスから滴る夕焼けに目を細めていた。その横顔があまりに整っている物だから腸を素手で掴まれる様な心地になるのである。成程。此れは体に悪い筈だ。彼の横顔から視線を外して僅かに中身の減ったカップへ目線を下ろす。

「そうだね。」
「はい、きっとそうですよ!」

彼の声は弾んでいた。いつもの様に幼い笑みを浮かべているに違いない。妙な色香の中に潜むギャップに腸を引き摺り出された被害者は一体幾多に昇るのか。僕は小さな息を吐いてカップを持ち上げた。淡緑のあしらわれたカップは夕日に染められて更に輝きを増している。

「監督生。」
「はい。何ですか?」

嚥下した紅茶の味は僅かに苦い。其れは砂糖が足りなかったからか、若しくは彼の空気に呑まれて仕舞っているからか。腸をぐちゃぐちゃに掻き混ぜるのに何処か満ち足りた温かさのある空気に。僕は震える手を諌めながら質問を口にする。もしかしたら口が災いを呼んで仕舞ったのかもしれないが。

夕焼けは君の味/ Director.S→←キマイラの咆哮/ Riddle


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鵯(ひよどり)(プロフ) - toraさん» 勤勉なる原書様、ご機嫌麗しく御座います。もう一つの方のコメントも大変有難うございます。お気に召していただき光栄に御座います。様々なカテゴリーを無造作に飛び回っていますので、いつかまた貴殿のお気に召す作品を認められたらと思います。 (2022年3月6日 2時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
tora(プロフ) - 何故、星に色がついていないのですか??好き。貴方が書かれる文章とても好きです。 (2022年3月5日 23時) (レス) id: 57d5a3265f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鵯(ひよどり) | 作者ホームページ:  
作成日時:2021年11月29日 20時

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