検索窓
今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:2,098 hit

茨の双子姫/ Malleus ページ22

#



夕陽の差し込む寮長室は此迄に無く鮮やかである。僕と彼は革張りのソファに腰掛けて向き合っていた。何でも無い生温い時間がゆったりと流れるのは気分が良い。温度を喪うアッサムに溶け込む牛乳が渦を巻いて悶々とする心を代弁しているかの様だった。僕と彼が向き合って茶番をするには訳がある。僕と彼が同様に等しいからだ。

「マリー。」
「何だ?」

彼は僕をマリーと呼び慕う。何も考えずに呼び慕うのはツノ太郎と僕を呼び慕うあの子と一緒なのか、もしくは同じ穴の貉であるからか。ミルクティーの様に明暗の混じり合った毛髪が夕陽に照らされて存在さえ正当化しようとしていた。さて、今回僕と彼の茶番の議題は僕と彼の存在理由についてだ。

「僕は正しいと思うよ。」
「ほう?社会の反対側の癖にか?」

人の上に立てば立つ程影は濃くなる。己が影であるか、民の重なる影の濃さか分からぬままに。光刺せば即ち影満ちる。次期魔王であろうとも詰問のスペシャリストであろうとも。己が口先三寸で国が転ぶ。所詮は闇の眷属足り得る跳梁跋扈の遠吠えである。ウォンズエッバのカップが泣いている。

「希望は世界に於ける最もの災厄である、と。」
「現実的だ。」

パンドラの箱には此岸のありとあらゆる厄災が閉じ込められているという話は著名だ。一番奥底に希望が潜んでいて主人公の乙女に優しい言葉を掛けるのである。だがしかし、前述の通りならばまた希望も厄災なのではないかと思うのだ。

「嗚呼。だから僕は、」
「孤毒を飲むのか?」

神からの贈物が毒とはバベルも酷な事である。ただ其れを噛むと決めたのは僕と彼であって今更乍ら皮肉にも成ら無い。窓の外には緑の月が登る。時刻は未だ夕刻の4時を指して笑っていた。淡い希望が同族を殺す夜。奇しくも妖精族が大戦で大敗を記した暁である。百鬼夜行の螢火が幼い僕を嘲る霄の事だ。

「どうだろう。僕は茨を飲む為に生まれたのかもしれない。」
「それは面白い。花を食べる為ではなく?」

翡翠の月に照らされて彼の薔薇が深く色付く魂の輝きより濃く深い対の瞳が嫋やかに僕を見詰める。深い色が僕を噛んで殺してしまいそうであった。影に落ちる口紅が花綻ぶ様に上下する。

茨の双子姫/ Malleus→←瓶詰めの人魚/ Jade


  • 金 運: ★☆☆☆☆
  • 恋愛運: ★★★☆☆
  • 健康運: ★★★★★
  • 全体運: ★★★☆☆


目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (5 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
3人がお気に入り
設定タグ:短編集 , twst , 男主
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

鵯(ひよどり)(プロフ) - toraさん» 勤勉なる原書様、ご機嫌麗しく御座います。もう一つの方のコメントも大変有難うございます。お気に召していただき光栄に御座います。様々なカテゴリーを無造作に飛び回っていますので、いつかまた貴殿のお気に召す作品を認められたらと思います。 (2022年3月6日 2時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
tora(プロフ) - 何故、星に色がついていないのですか??好き。貴方が書かれる文章とても好きです。 (2022年3月5日 23時) (レス) id: 57d5a3265f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:鵯(ひよどり) | 作者ホームページ:  
作成日時:2021年11月29日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。