退廃した都市で/ Silver ページ19
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「面を上げてくれないか。」
「御意に。」
軍服を珍しく着用された国王陛下が威風堂々とした佇まいで調度品にゆったりと腰掛ける様子は百花繚乱の如しである。僕は頭上げつつも決して視線を上げる事なく慇懃に返した。彼の華のある声がウバの重厚な香りと共に脳髄をぐらり、と揺らした。薔薇の彫刻が嘲笑う様に此方に微笑む。
「そう畏まらなくても良いよ。それより此方に来て座って欲しいんだけどな。」
「お恐れ多い事に御座います。」
「真面目だね。俺は嫌いじゃないけど、君とはゆっくり話したいな。」
「御前に参ります。」
「うん。ありがとう。さぁ、座って。珈琲を淹れようか?それとも葡萄酒がお好みかな?」
「……お紅茶を頂けますか?」
彼は陛下は気を悪くする事もなく、卓上に置かれた金色のベルを鳴らす。すぐに彼の側に小さな妖精が現れた。蜻蛉の羽を持つ侍女で陛下と二言三言会話すると丁寧に辞儀をし、すぐに夜に巻かれて消えてしまった。伝言係の妖精らしい。陛下はすぐに此方に向き直るとじっくりと僕の瞳を見つめた。海底に眠る金貨を吟味する商人の瞳だ。
「さて、今回呼んだのは単純にマレウスについて聞きたいからだよ。」
「畏まりました。」
「彼はどうかな。」
「優秀でいらっしゃいますよ。」
「また孤立してるんだね。」
「マリーが拒絶しているのでは?」
「あれ。君たちそんなに仲が良いんだね。」
「それなりに仲良くさせて頂いております。」
「そう。」
陛下が話を途切れさせた瞬間、ノックの音が響き渡った。陛下が入室する様に促すと巨大な扉の隙間から栗毛の男が姿を表した。春の海を思わせる燻んだ柔らかな色の瞳が印象的な男である。彼は慇懃に一礼するとお茶の一式を引いて持ってくる。宝石の花が豪奢に飾られた花瓶が置かれ、マカロンやマドレーヌ、カトレーヌが形良く配置されている。
「今日は話が出来てよかった。シルバーとゆっくりして帰ると良い。」
「ありがとうございます。」
「またね。」
「……お忙しいのだな。」
「竜巻みたいだったな。」
「でも、嬉しいよ。まさか陛下が態々僕に時間を作ってくださるなんて思ってもみなかったよ。」
「俺も久しくお会いしていなかったから何だか新鮮だったな。」
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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鵯(ひよどり)(プロフ) - toraさん» 勤勉なる原書様、ご機嫌麗しく御座います。もう一つの方のコメントも大変有難うございます。お気に召していただき光栄に御座います。様々なカテゴリーを無造作に飛び回っていますので、いつかまた貴殿のお気に召す作品を認められたらと思います。 (2022年3月6日 2時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
tora(プロフ) - 何故、星に色がついていないのですか??好き。貴方が書かれる文章とても好きです。 (2022年3月5日 23時) (レス) id: 57d5a3265f (このIDを非表示/違反報告)
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