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どれくらいそうしていたのかわからない。
ずっと電気もつけていないことを心配したのか、隣の壁がコンとノックされた。
何かの間違いかもしれないとも思い、一回目は無視したのだけど、しばらくしてもう一度ノックされて、恐る恐るベランダに出ると、深澤くんも出てくるところだった。
深「あの…さっきはほんとごめん。」
「うん。」
深「怪我してない?」
「してないよ。
あのさ…前にも言ったかもしれないけど、やめた方がいいよ。」
深「そうだよな。
またAちゃんに迷惑かけちゃうけもしれないし…」
「そんなことはどうでもいいの。
私が言いたいのは、深澤くんが傷つくってことだよ。」
深「俺はいいんだよ。」
「よくないよ。
どうしていつもそうやって自分のことどうでもいいみたいに言うの?
そんなのダメだよ…」
深「Aちゃんだけだよ、そんなこと言ってくれんの。」
そう言うと深澤くんは黙ってしまった。
思いつめた様子で夜空を見上げる。
今日は曇っているから完全に星が見えない。
深「ちょっと長くなるんだけどさ、俺の話聞いてくれる?」
「うん。」
深澤くんはゆっくりと話し始めた。
深「俺、ちゃんと好きな人いるよ。」
「…」
それが自分だなんて言われるとは100%思えなかったのは、深澤くんの瞳が遠くを見ていたからかもしれない。
いつもの、何か満たされない表情。
初っ端から失恋確定で泣きそうになった。
でも今は深澤くんの話をちゃんと聞いてあげないと、そう思って深く息を吸い込んだ。
少しひんやりとした空気が体の中に入ってきて季節の変化を感じる。
そして深澤くんは自分のことを話し始めた。
こんなふうに彼が自分のことを話すのは初めてだから緊張する。
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作者名:カフ | 作成日時:2022年10月11日 21時