28 ページ28
.
次の日は誰とも会う予定がなかったみたいで、ベランダで呑もうとお誘いがあった。
この前深澤くんが買ってくれたお酒を2本持ってベランダに出る。
そのうちの一つを渡すと深澤くんは素直に受け取った。
「昨日うるさかったでしょ？
ごめんね？」
｢ううん。
大丈夫だったよ？｣
本当は大丈夫じゃない。
今までそんなことで謝ったことないのに、なんで今日に限ってそんなこと言ってくるんだろう？
もしかしてわざと？
昨日の深澤くんの言葉が頭の中を反芻して苦しくなる。
この時間はあなたにとってなんなの？
｢少し冷えてきたな。｣
｢もうすぐ秋になるね。｣
｢俺秋が一番好き。｣
｢私も！｣
｢ふは、一緒だね。｣
｢でもあんまり寒くなるのは嫌かな｣
｢Aちゃん寒がり？｣
だってこうやってベランダで過ごす時間が減ってしまうでしょう？
去年の冬もベランダで話すことはあったけど寒いからやっぱり中に入ろうって少ししか会えないことが多かった。
寒い冬は、深澤くんに会える時間が減ってしまうから嫌い。
｢寒いの苦手。｣
｢なんか分かるかも。
じゃあこうやって話できる時間も少なくなっちゃうね｣
｢そうだね…｣
なんて返したらいいかわからず適当に相槌を打った。
自分の持っている缶チューハイに視線を落とすと深澤くんは名案を思いついたようなパッと明るい声で話し始める。
｢じゃあさ、寒くてどうしようもない時はどっちかの家で話そうよ。｣
｢え？｣
｢そしたら寒くないし、いっぱい話もできるよ。
って…あーそういう事じゃないか。ごめん。｣
私の反応があまり良くないものだと勘違いしたのか、急に口ごもる深澤くん。
なんであなたはそういとも簡単に私の心の中をぐちゃぐちゃに掻き回すのか…
去年の今頃はそんな発想思いつきもしなかった。
ましてや彼の方からそんな誘いを受けるだなんて予想すらしていなかった。
｢康二、最近きてんの？｣
｢ううん。
転勤したばっかりで仕事が忙しすぎてなかなか来られないみたい。
電話はしてるんだけどね｣
｢そっか…
また呑もうよって言っといて？｣
｢わかった。｣
深澤くんが吸うタバコの煙は夜の空にあっという間に消えていく。
今日はそれが特に早い気がした。
ただ、深澤くんの目の奥に光が宿っていないのが気になって、それはきっとこの暗い夜のせいだと、そうであれと私は切に願っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1360人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カフ
| 作成日時：2022年10月11日 21時
