隣の甘い誘惑（紫） (ページ19)

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この時期特有の通り雨、今朝出かける時には青空だったのに、仕事を終え最寄り駅に着いた時には土砂降りだった。

すっかり油断をして傘を忘れた私は空を見上げて立ち尽くしていた。

仕方なく濡れて帰るか、コンビニで傘を買うか…

迷っていると後ろから肩を叩かれる。

振り向けば珍しくスーツ姿の深澤くんが立っていて、あまりのかっこよさに思わず息を呑んだ。

「どした？」

「…あの、傘」

「あー、今日天気予報で言ってなかったもんな。
じゃあ一緒に帰ろっか」

なんの躊躇いもなく深澤くんは傘を広げた。

深澤くんとの相合傘なんて当然初めてで、しかもこの前のことがあってから初めて会うからなんとなく緊張してしまう。

せっかくかっこよくスーツを着こなしているのに私が傘に入ったら濡れてしまわないか…

あれこれ考えている間に深澤くんは私の肩に手を置いて軽く押した。

「ほら、行くよ？」

「あ、うん。」

背中に添えられた手はすぐに離れた。

出来るだけ不自然にならないように距離を取りながら歩く。

雨はさっきよりも酷くなって、ザーザーと傘に当たる音が大きくなった。

もっと大きくなって欲しい。

そしたらこのドキドキも、うまく隠せそうだから。

雨のせいでいつもより歩くペースが遅くなる。