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「ハンバーグ練習しなくちゃ。」
「いいよ。いつも通りで。
きっとAちゃんのはおいしいもん。」
「あんまり期待しないで。」
「えーだって。」
「あと、あんまり期待させないで？」
「ん？」
「深澤くんモテるんだからさ、そういうことあんまりすると厄介な女に好かれてまた大変なことになるよ。」
「たしかに色々痛い目は見てる。」
「免疫のない人は簡単に好きになっちゃうんだから…私みたいのとか」
最後の方の言葉は消えるように、聞いてほしいけど、聞いてほしくない。
そんな複雑な気持ち。
深澤くんは私の顔を覗き込むように見たあと、私の手をぐっと引いた。
距離が近づく。ドキドキして心臓がもたない。
「じゃあさ…好きになるか、試しにキスしてみる？」
「…っ」
とても冗談を言っているとは思えないほど真剣な眼差しの彼に抵抗することが出来ずに目をぎゅっと閉じる。
静かで、近くに彼の存在を感じて息をのんだ。
キスされる…これでただのお隣さんではなくなってしまう。
ああ、もう変わってしまう。
でもいつまで待っていても唇が触れることは無かった。
「…ふっ、冗談だよ。」
「もう、からかわないでよ。」
気まずくなるのが嫌で精一杯答えてみたけど、胸の辺りがチクチク痛んだ。
本当にキスされると一瞬でも思った私は、やっぱりさっきまで自分が言っていた厄介な女になるのかもしれない。
ぎゅっと掴まれていた手も、近づいた距離も、すぐに離れてしまった。
しばらく沈黙が続いたあと、彼がゆっくり口を開く。
「そうだね。
Aちゃんみたいないい子は、俺みたいな奴は好きにならない方がいいかもね。」
「私、いい子じゃないもん。」
「いい子だよ。
だからAちゃんには幸せになってもらいたいの。」
「私も、深澤くんには幸せになってほしいって思ってるよ。」
彼の顔を見ることが出来なかった。
彼にとって私はそういう対象ではない、完全に。
わかってる、これ以上はダメだって何度も何度も彼は態度で示してる。
私だってその方がいいってわかってるのに、現実を突きつけられる度に胸が抉られるように痛い。
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作者名：カフ
| 作成日時：2022年10月11日 21時
