・ ページ5
.
「……」
「……」
三人の男女が険悪な雰囲気を漂わせながら道のど真ん中に立ち往生している今の状況。肩を縮こませて二人の様子を伺う私の足が、無意識の内に後ずさった。
「俺、送るで」
不意に肩に手を置かれてパッと顔を横に向ける。癖ひとつない紫髪が街灯の下でさらりと揺れた。
まさに夜を司る魔王といった風貌。坂田くんが儚さと可愛らしさを感じさせる桜なのであれば、志麻は鋭い棘の内に美しい花弁を纏う薔薇のようだ。
「A、行こか」
目を細めて彫刻と見間違うほどに綺麗に微笑んだ志麻は、私の手を取って自宅方面へと体を向ける。抵抗する間もなく手を引かれた私は、慌てて背後に目線を向けて赤髪の彼を振り返った。
「(……あれ、いない？)」
目線の先に誰もおらず、ぱちくりと目を瞬かせる。
______ふわり、
優しい桜の香りが鼻腔を擽った。再び目を瞬かせた次の瞬間、不意に志麻に掴まれていない左手に優しい感触が当たった気がした。
「____！」
思いがけない状況に目を見張る。
さらさらと風に揺れる赤髪の下で、その薄紅色の唇が私の手の甲に触れていた。陶器のように白い肌で扇情的な赤色が視界の奥でぐらぐらと揺れた。
「おやすみなさい、お姫様。」
数秒間の口付けの後、ゆっくりとその身を離した坂田くんは夜空の下で流れ星のように微笑んだ。
横髪に隠れた彼の頬が少しだけ赤くなっていることに気が付く。やけに熱の集まる頬と手の甲を冷ますように冷たい夜風が触れる。
「お、やすみ」
ドクドクと高鳴る心臓を必死に堪える。10秒もしない出来事にこんなにも胸の鼓動を激しくさせられるなんて、自分でも不思議なくらいなのに。
「……行こか。」
キスをされていない方の右手を志麻に引かれて、私は転ばないように足を動かした。その間にも坂田くんは流れ星のような笑顔で私を優しく見つめている。
「……」
「ぃっ、」
ギュ、と右手が強く強く握られた。斜め前を歩いている志麻に反射的に目を向けると、紫色の前髪の下で彼は悔しそうに唇を噛み締めていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 187人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：らむ | 作成日時：2022年9月27日 10時
