検索窓
今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:8,631 hit

#22 ページ23

匂わしが上手いんだよAは。


本当はとしみつが好きなくせに。大好きで仕方ないくせに。


俺をその気にさせておきながら。罪な女だ全く。


巧妙なテクニックで落とそうとしてきやがる。もうとっくの前から落ちて抜け出せなくなっているけど。


端から見たら別に普通の高校生なんだけど、なんか目が離せないっていうか。


つやっとしたショートな髪も、羨ましいくらいにぱっちりな目も。


俺とは大違いな真っ赤な唇も、チビのくせに態度だけはデカイところも。


その全てが「A」。


フィルターがかかってるんじゃないの? って言われればそれまでだ。


でもその真理に至るまで、時間は掛からなかった。


心の中の張りつめていた細い糸が、ぷつっと音をたてて切れた。


我慢するのって、意外にも限界が近いんだ。


男は欲求の塊だ。それ以外の何物でもない。


気がつけば俺の唇は、Aに触れていた。


ダメだ。


息をすることも忘れる。


もう頭の中がめちゃくちゃで、何も考えられない。


「......ん、くる、しい」


て「...あ、」


苦しそうなAの吐息で我に帰る。


て「ごめん......!」


俺は一体何をしでかしてしまったんだろう。


欲求には、無謀にも逆らえない。


悲しげな表情で俯いている。今にも涙がこぼれ落ちてしまいそうなくらい。


「......映画、面白かったよ。ありがとう」


たった一言だけ残し、彼女はドアをパタンと閉め、部屋を出ていった。


切なげな彼女に何も言えなく、ただ呆然と見つめることしかできなかった。


俺一人しかいないこの部屋に、運悪くAが忘れ物をしてしまっている。


今から追いかけても十分間に合うのだけれど、これはきっと “あれ” だから、体が動かない。


ハートがたくさんのピンクの封筒。それは紛れもなくとしみつに宛てたものだった。


強引にキスして、さらに人の手紙まで覗いてしまうのは本当に最低だ。最低以外言葉が見つからない。


そっと封を開き、見てみる。中身なんて、いくら鈍感な俺だってだいたい予想がつく。


......やっぱり、ラブレターだ。


一途にとしみつを想っているこの子に、俺は何てことをしてしまったんだろう。

#23→←#21



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (13 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
20人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:#Love | 作成日時:2020年7月3日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。