甘いと苦いの、その間。｛Ren｝ ~second~ (ページ20)

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平野さんの視界から外れたことで

やっと私は、止まっていた呼吸を再開する。

状況を飲み込めていない脳みそに

できるだけ深く酸素を送るように

空気を味わう間もなく、吸って吐いてを繰り返す。

　

やっと身体中に循環し始めた頃には

店内の空気はさっきよりも賑やかになっていた。

　

色んな言葉や会話が入り乱れている中で

私の視線は、とある視線と出会う。

　

それは

嬉しそうにキンプリさんたちの輪の中に入ってる藍梨でも

作った台本を手にケーキの説明をしてる優香でもない。

　

　

廉「、、、(にこ)」

　

　

いつの間にか視線の先にいた

永瀬さんが浮かべた笑みの

泡沫のような儚さを、私は刹那に感じてしまった。

　

　

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彼と最後に会ったのは

もう、何年前だろうか。

あの頃の私は

まだ就職して間もなかった気がする。

　

パティシエにしか興味がなかった私は

高校卒業後すぐに就職した。

でも

最初のうちは、下積みという名の雑用ばかり。

全くケーキに触る事のできない日々を過ごしてた時だったと思う。

　

A『いらっしゃいませ、』

『、、、こんにちは。(にこっ)』

　

彼は私が当時勤めてたお店に

何の前触れもなく訪れた。

その回数が増えていく度に

意外にも同い年だった彼と

“お客様”と“店員”という間柄ながら、打ち解けていった。

　

彼は名前を

“平野”と言った。

　

　

　

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