甘いと苦いの、その間。｛Ren｝ ~second~ (ページ1)

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大きく深呼吸をすると

ふわわぁぁ、とふしだらなあくびが飛び出した。

もうこんな時間。

そう思いながらも

完成まであと10分、というケーキを見捨てる訳にはいかず

先に片付けちゃおう、と一目散に流し台へ向かった。

　

「、、ジャーーーーー」

　

一定の速度で、一定の量を、一定の音を出しながら

泡を落としていく水。

つまらないけど、なぜか興味深い。

　

誰の人生でも

常に一定の速さで時は進んでいる。

でも、それは“事実上”での事。

人には、それなりの“感覚”が備わっている。

嫌な時は遅く、楽しい時は速く

そんな風に時が過ぎていくように感じる。

でも

私は、一定に進む時間を

それと同じように一定の速さで辿っていく。

それが

生きる上で、最大限に時間を有効活用する方法だと思ってる。

たとえ

自分に危険が迫ろうと、優香や藍梨に命の終わりが迫ろうと

どうせ人生は

勝手に戻ることも、勝手に進める事もできない。

それなら、ただ全うしていたい。

適度に打ち込める趣味があって

親しい友達がいて

ほんの少しの夢があって

それなりの幸せを感じて

長くなるであろう人生を、単純に進んでいきたい。

　

　

そう思ってたはずなのに。

　

「、、ピコン、」

A「、、、あ、」

ドキッ、と分かりやすく胸が震えた。

濡れた手をさっと拭いてロックを解除すると

慣れた手つきでラインを開く。

　

『まだお店に居る？』

　

居ます

ぶっきらぼうな感じにそう返すと

今度鳴ったのは、携帯じゃなかった。

　

「、、カランカラン、」

　

その音に、慌てて厨房から飛び出すと

なぜか、体がフワッと浮いてしまいそうな感覚に襲われた。

　

　

　

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