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｢俺が探すからいいよ。｣
この冷めきった空間に、暖かい声が加わる。
落ちた吸入器を彼自前のウエットティッシュでサッと拭き取り、俺に素早く渡してくれる。
ワンプッシュして様子を見るけど、吸入するタイミングが遅れたせいか、効果が見られない。
まるで偏頭痛の薬を遅めに飲んだ時みたいに、、なんの効果もない。
げほげほぜーぜーしてる俺に優しくしてくれる人は彼だけ。
周囲は相変わらずで、精神的にもきつい。
吸入の効果がないのは、ただ単に身体が弱いだけではないと思う。ストレスからも来てるんだと思う。
そんなストレスをかき消そうと、隣の彼はひたすら背中を摩ってくれる。
｢あのっ、車椅子持ってくるとか出来ないんですか？｣
隣の彼が全体に聞こえるように嘆く。
けど、やっぱりみんなも大事な面接を潰す訳にはいかないらしく、動こうとはしない。
｢そんなんで看護師なれると思いますか？｣
彼は最後にそう嘆き、俺を抱き上げる。
廊下を少し進むと、車椅子があり、そこに俺を乗せる。
そのまま隣の病院まで急いで運んでくれる。
その間に掛けられる言葉。
｢だいじょぶ、すぐだから｣、｢俺がいるから｣、｢きついな｣
どれも心に寄り添った言葉で、あの会場で冷えきった心が溶かされていく。
渡り廊下から病院内に入ってすぐの所で看護師さんに出くわし、そのまま処置室に連れていかれた俺。
数十分の処置を終え、処置室から病室に戻される時、
｢よかった、落ち着いたみたいで。｣
命の恩人さんはずっとそこで待機しててくれたみたいで、俺が出るなりすぐに駆け寄ってきてくれた。
彼の隣にいた看護師さんの手にはティッシュが握られてて、彼の目元をよく見ると、赤くなってる。
病室まで車椅子を押してくれた彼。
｢俺、松本潤。｣
彼によく合った名前。
｢ごめんなさい。面接、もう、間に合わないよね？｣
病室に入った時に浮かんできた潤くんの涙。
それを真っ直ぐに見つめることができず、下を向いて謝る。
｢あ、これはちがくて、面接とか全然気にしてない。｣
看護師さんに支えられながらベッドに腰を下ろした。
座った俺に目線を合わせて、そう伝えてくれる。
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作者名：賞味期限 | 作成日時：2022年7月7日 3時
