少女の演ずる人形劇-マリオネット- (ページ9)

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第9話ページ9

「私、興味無いし……瑠依(るい)にも、そのよくわかんない機械にも」

“怒り”の授業。

即興での演技。

怒りの感情が自然に見えるための“サポート”と、怒りの感情を演じる“メイン”との二人で演技を行う。

「よくわかんないじゃないよ！大切な物でしょ！？」

亜依さんが怒りを露わにして声を荒げる演技をすると、サポートの役をしていた百合(ゆり)さんがビクッと震える。

無理も無い。
だって、亜依さんはいつだって“恐怖の対象”で……その上、いつも声を荒げないのに声を荒げたんだから。
演技だってわかっていても、怖いのは仕方無い。

「なんでそれもわからないの……！？」

それでも、亜依さんは演技を続ける。
先生からストップの合図がかかるまで。

「ねぇ、何か言ってよ……！」

「ぁ……」

亜依さんが百合ちゃんを鋭く睨み付ける。

百合ちゃんは声が出なくなったみたい、だけど……それでも終わらないのが、即興劇の怖いところで。

もし実際のお仕事でこんなことがあっちゃいけないから。
もしこんなことがあっても、自然に続けられるように。

「……もう言えないの？あんなこと言ったのに？ただのおふざけだったの？」

亜依さんが冷たい声を発する。
怒りに満ちた冷たい顔。
どうしてこんな顔が出来るんだろう。

「最低」

冷たい顔でそう呟くと、ドアをバタンと閉めてホールを出た。

「はい、終了。戻って来て良いよ、亜依さん」

扉をうっすら開き、チラッと愛らしい顔を覗かせる。
亜依さんは、どうしていつもこんなに愛らしいんだろう。

「はぁーい」

亜依さんがにこにこと微笑みながらホールに入り、直ぐに百合ちゃんの元へ行く。

「大丈夫？」

「あ……は、い」

「全部演技なんだから大丈夫だよ、本当は百合ちゃんのこと大好きだよ」

にっこり、微笑んで。
こういうとき、たまに亜依さんが怖くなる。
憧れているはずなのに。

「はい、じゃあ各自今日の演技を見直して復習すること。二人ともよくできたね。亜依さんはいつも上出来だ」

その先生の声を合図に、皆ゾロゾロとホールを出る。
私語も無く静かなのに、皆急いで雪花に向かう。
その様子が、まるでアリのようだと思った。