第5話 ページ5
咄嗟に玄関に行くと、恵美のお父さんが血塗れで床に横たわっていた。
その横で恵美のお母さんが呆然と立ち尽くしている。
刺していたのは、案の定さっきの少女だった。
「……すみません。この方が癇にさわることをおっしゃったので、つい」
上品で真面目な様子や仕草はそのままに、ごく当然のように恵美のお父さんを見下ろす少女。
「あ……自己紹介が遅れましたね。私、小鳥遊
黄色に統一された服の裾を掴み、こんな状況なのに丁寧に自己紹介をする来依。
……ふと、茉依と同一人物ではないかと思い始めた。確かに年齢は違って見える。服装や仕草も違う。
けれど、茉依だってそうだった。恵美を刺す前、私が殺人依頼を断ってから態度が大きく変わった。
もしあれが演技なら、これくらいの違いは演出できるんじゃないだろうか、と。
「それじゃあ、名残惜しいですが。さようなら……お母さん」
来依が恵美のお母さんを刺した。
お母さんと、そう呼んで。
「……私はもう帰ります。お邪魔致しました」
来依が扉を閉めると、すかさず救急車を呼んだ。
恵美のときに後悔したんだから、今度は早めに呼ばないといけないと。
「鈴音……私……」
「大丈夫……もう少しで救急車来るから……」
きっと助かる、とは言えなかった。
恵美のご両親の左胸から流れる深紅の液。
その量からして、助かるのは難しそうだと素人ながらに感じていた。
「お父、さん……お母さん……」
……恵美の目に光が入っていない。
無理もないだろう。
自身の左腕を刺されて、そのちょうど一週間後に両親が刺されたのだから。
救急車が来るまで、静かな時間だった。
恵美の泣き声だけが部屋に響いて、春樹は恐怖で縮こまって。
どうしたら良いのかわからなくなる。
私は一人だけ家族じゃない。
それでも当然ショックは大きいけれど、この二人のショックは私の比じゃない。
それをわかっているから、何もできないし何も言えない。
ただただ、恵美の泣き声を聞き続けることしかできなかった。
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作者名：うさぎ@りんご飴 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/47e05267373/
作成日時：2016年12月7日 19時
