第26話 ページ26
雪花に戻ってもお義父さんはいなかった。
入れ違いになったかもしれない、という彩乃ちゃんに従って山小屋に向かう。
彩乃ちゃんに聞いた話の限りでは、もうあの山小屋は使えない。
それに、きっと罰を受けることになる。厳しい、罰を。
その覚悟で山小屋を使っていたんだから、どんな罰だって受け入れられる。
ほんの少し深呼吸をして、山小屋の扉を開く。
誰も、いない。
そう思った。
「ぁ……ッ」
耐えられない痛み。
左腕……さっき刺したところが、途轍もなく痛い。
色々な痛みに耐えられるように、痛みの中で演技を続けられるように練習しているのに。
それでも、演技が止まってしまう。
初めて、演技を続けられなくなった。
「……演技を忘れたのか、依里」
「ごめん、なさ……、っあ……！」
左腕に目をやると、刃物で傷口が抉られているのが見えた。
あぁ、だからだ。
抉られたことなんて、なかったから。
だから耐えられなかったんだ。
「何故裏切った。何故隠し事をした？」
「裏切る……つもり、じゃ……」
痛みに耐えられず、座り込みそうになって壁にもたれかかる。
お義父さんが私の髪を掴んで、山小屋の外に放り出す。
「もう帰らないで良い。お前に雪花に居る資格は無い」
「っ……！」
目の前で扉が閉まる。
頭がぐちゃぐちゃになった。
なにも考えられなかった。
雪花には戻れない。
山小屋だって、もう使えない。
雪花にいられなくなったら、もう……私に、居場所は無い。
＊
とにかく家を出て、交番に向かう。
もしかしたら、さっきの二人が交番に向かったかもしれない。
交番に着く前、交差点に赤頭巾の少女が立っていた。
会いたくなかったけれど、目が合ってしまったから仕方がない。
亜華莉もそう思ったのか、此方に歩み寄ってきた。
「また会いましたねぇ、お姉さん？」
亜華莉がにっこり微笑む。
「私、今日はちょっと機嫌が良いんですよぉ。なんでだと思います？」
もう少しで交番に着くのに。
でも、前回も亜華莉は諦めが良かった。
きっと、今回も直ぐ諦めてくれるはず。
「無視ですかぁ？ やっぱりひどいですねぇ、お姉さん」
そんな風ににこにこ笑って、愉しげにくるりと回って走って行った。
「じゃあ私、行くところがあるので」
亜華莉がいなくなってすぐ、横断歩道を走って渡った。
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作者名：うさぎ@りんご飴 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/47e05267373/
作成日時：2016年12月7日 19時
