ザクロの香りの正体、影山くん。２【影山飛雄】

第８８話 ページ41

.








『 お父さんっ！！ 』



息切れしながら病室のドアを開けた。

そこには白いベッドと、桃をパクパク頬張るお父さんの姿。その隣にはお姉ちゃんもいる。



「 あんた合宿抜けてきたん？……残念ながら、その必要はなかったみたい。

急性的なストレスで倒れただけだから、寝とけば治るらしいよ。 」



派手髪をさらっと揺らして、フォークで桃をぶっさすお姉ちゃんの言葉に、

私は「はあああ」と壁にもたれこんだ。


急性的なストレスって…………

お母さんと同じじゃん、倒れた理由。

もっとストレス溜め込んでたら、同じように鬱になってた可能性もあるんでしょ？


…………無事でよかった。

ホッとするのと同時に、お父さんの方を睨む。



『 もう！めちゃくちゃ東京からマッハで帰ってきたんだからね！！？ 』


「 ははは、悪い悪い。最近全く寝てなかったんだよ〜、それが原因だわ 」


『 笑い事じゃないよ！！ 』



まあ無事だったから良いけど、と言いながら、私も丸い椅子に腰をかけた。



「 …あ、この機会に言うけど。 」



すると、お父さんは桃を食べるのをピタッとやめて、フォークを置く。

その口調は真剣さも感じられた。え、なにもしかして持病？


焦りを感じる私に、お父さんは言葉を並べる。









「 Aも、蘭華も、こっちに住まない？ 」


『「 ……………え 」』



唐突な提案に絶句。

こっち、というのはお父さんが今住んでいるところであって、


烏野区域からは遠すぎる。

じゃあ、転校しなきゃいけない、っていうことなの？



「 あたしはいいけど……Aは、どうなの？ 」



そう言いながら私をチラ見するお姉ちゃん。

そうだよ。やっと仲間もできて、アオハル真っ最中だったのに。


烏野排球部が、やっと形になってきたのに。

影山くんと、やっと付き合えたのに。


目を見開いて口ごもる私に、お父さんは「………まあ無理にとは言わんよ」とフォークを持つ。



「 その様子だと、引っ越したくないみたいだけどさ 」


『 ………うーん 』



首をかしげるが、そりゃそうだ。

幸せ絶頂期なのに引っ越しなんて、嫌に決まってる。




………けど、またお父さんが倒れたら？

私のいないところで、今度こそ死にそうになってたら。私もお姉ちゃんも離れたところからすぐに駆けつけることはできない。









.




◎片山蘭華(20)


夢主の姉。

好物：スルメ

最近の悩み：人肌恋しい







.

第８９話→←第８７話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す