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その日は初めて大学内で伊野尾ちゃんを見た。
キャンパス内のベンチに大ちゃんと並んで2人で座っているのが後ろ姿ですぐに分かったから、声をかけようと後ろから近付いた。
ついでにちょっと驚かしてやろうと大ちゃんの肩に手を置こうとした…のだけど。
「いいじゃん、仲良くなれたんなら、告白もしちゃいなよ」
大ちゃんのその言葉に俺の手は行き場を失ってしまった、思わず距離をとって植木の影に隠れる。
「む、無理だよ…絶対ふられる」
「もぉ〜またそんな弱気になって〜…」
明らかに恋バナな内容に勝手に聞いて大丈夫なのかと、焦りつつもつい気になってしまって、その場を動けなかった。
伊野尾ちゃん好きな人…いるのか。
あんまり恋愛に興味があるようには見えなかったから意外だ。
「…友達になれただけで十分だもん」
「でも、好きなんでしょ？それを隠してずっと友達でいれるの？」
「う…いれるし…」
強がりのようにそう言った伊野尾ちゃんの肩が震えているように見えた、そこまで好きになるような人がいるの？
そして、大ちゃんには相談するのに俺にはしてくれないんだ。
無意識にそんなことを考えてしまってハッと我に返る。
……いや、当たり前だろ。
高校からの友達の大ちゃんと最近友達になったばかりの俺では大ちゃんに相談するにきまっている。
しょうもない嫉妬をしてしまった。
これ以上の盗み聞きは伊野尾ちゃんに悪いからその場をバレないように後にする。
……今日、もし喫茶店で会えたなら
俺から聞いてみようかな、伊野尾ちゃんの好きな人の話。
「あ、山田だ〜」
カラン、コロンとドアベルを鳴らして店内に入ってきた伊野尾ちゃん。
ヘラッと笑って俺の正面の席にいつものように座った。
今日も何を頼むか迷ってオムライスを注文すると、楽しみだな〜とお冷をひとくち飲む。
大学で見た時は元気ないように見えたけど、今は平気そう。
どう話を切り出すか迷っている間に伊野尾ちゃんが頼んだオムライスが運ばれてきて美味しそうに食べ始めて、
「…あのさ」
「ん？」
「伊野尾ちゃんって好きな人いるの？」
俺が聞いた途端、カシャンと音を立てて伊野尾ちゃんは持っていたスプーンを床に落とした。
慌てて拾おうと2人してテーブルの下に潜り込んで、スプーンを取ろうとした手が触れ合う。
「あ…」
ごめん、と顔を上げると
伊野尾ちゃんの顔は真っ赤だった。
クリティカルヒット ▼
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作者名：supika
| 作成日時：2024年2月18日 13時
