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「………あの」
いや、声をあげたところでイヤホンつけてるから聞こえるわけ無いんだけど。
いきなり肩叩いたらびっくりするかな、とか考えて。
案の定俺の声は届いていないみたいだから、伊野尾さんの視界に入る位置に移動して顔の前でひらひらと手を振ってみた。
「……え」
俺のひらひら振る手を見て目を見開いた彼は、今度はその手の持ち主を確認しようと俺の顔を見るわけで。
「あ、どうも…」
目が合ったからぎこちなく俺が挨拶すると、伊野尾さんはキーボードを打っていた手を止めてお化けでも見たかのように驚いていた。
「え、えと…俺、同じ大学の山田っていうんですけど」
「や、やま…」
「伊野尾さんですよね？あ、相席してもいいですか？」
状況を理解できないなりに「あ、どうぞ…」と承諾してくれたから、遠慮なく正面の席に座るとノートパソコンを閉じてイヤホンを外してくれた伊野尾さん。
声を聞いたのは初めてだった、特徴的な高い声。
「その、なんで俺の名前…」
おそるおそるそう聞いてきた伊野尾さんはほんのりと顔が赤い気がした。
タイミング良く店員さんがお冷を持ってきてくれたから、コーヒーを一杯注文してから質問に答える。
「大ちゃんから聞いて、あ、俺大ちゃんとサークル同じなんですよ。ゲームサークル」
大ちゃんの名前を出した途端に伊野尾さんは顔を歪めて「大ちゃんめ….言いやがったな…」と小さな声で呟いた。
俺が首を傾げながら彼の方を見ていると直ぐに視線に気が付き、よそ行きのような笑顔を貼り付け「そっか、急に名前呼ばれたからびっくりしちゃって」と胸の前で両手を振る。
アンニュイな雰囲気の見た目なのに意外と口悪いのか、と思うとなんか笑みが零れた。
「実は伊野尾さんと前々から話してみたいなって思ってたんですけど、まさか同じ大学で大ちゃんの友達とは思わなくて」
「…話してみたい？俺と？」
「うん、いつもここで居合わせるから、気になってて」
率直な気持ちを述べると伊野尾さんは首に手をあてながら視線を逸らす、多分照れてるんだろうな。
「えっと、俺も…山田くんと話してみたかった…んだけど。話しかける勇気なくて」
「ごめんなさい、俺いつも漫画読んでましたもんね、話しかけずらかったでしょ？」
「そんな事…いや、少し話しかけずらいオーラ出てた」
「ふは、ですよね、まじすんません」
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作者名：supika
| 作成日時：2024年2月18日 13時
