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やっと、やっと37週をむかえようとしていた。


家には小さなベビーベッドが2つ入っていた。

小さな箪笥には真新しいベビー服もたくさん入っていた。

そのほかこまごましたものも、芙希が体調の良かったほんのわずかの間に買い整えたものだった。



芙希はまた管理入院していた。


眠っている芙希のそばで内田はぐったりと座っていた。


(かわいそうに芙希。やつれてしまって。

ろくにピアノを弾く暇もなかったね。

せっかくベーゼンもべヒシュタインも家ん中にあるのに。

コンサートピアニストとしてこれから絶頂期に入るはずだった。

うなるほどオファーが来てたんだろ?

・・・そういう意味での後悔は、なかったんだろうか?)


内田はばらばらになった芙希の髪をなでた。





帝王切開の時期がいよいよ近づいてきた頃、芙希はもうすっかり覚悟を決めていた。


元気にお腹を蹴っている赤ん坊は、間違いなくちゃんと産まれてくる。

その点はなぜか確信があった。

内田にはかわいい子供たちを置いていけるだろう。


だがどんなに科学が発達しても、万が一ということもある。

その時には子供たちに残してやりたいと思うものは一つだけだった。



芙希は今までの自分のCDやDVDをまとめていた。

私のすべてはここにある。

内田のおかげでここまでやれたのだ。

私が内田と愛し合い、ともに歩んできた証は、これだけでいい。

内田と出逢えて幸せだった。



「万一の時は、これを子供たちに渡してね。時が来れば、聴かせてやってほしいの」



内田と自分の人生の共演の証なのだ。内田にしか頼めない。

内田は息をのんだが、黙って受け取った。



内田はたとえどんなことがあっても、・・・芙希を失いたくはなかった。

けれど芙希にそう言ってはならなかった。

芙希は命をかけても俺の子を産んでくれようとしているのだ。



内田は初めて神様を信じる気になっていた。


(ああ、どんな子でもいい、無事に生まれてさえくれたら!

そしてどうか神様、芙希を助けてください!!)

誕生→←備える



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作者名:夏葉 | 作成日時:2015年1月30日 13時

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