GP ページ41
卒業旅行はシンガポールだったが、真梨香は行かなかった。
吉田は自分に遠慮せず行っておいでと言ってくれたが、真梨香はありがたくお断りした。
ひそかな確信があったのだ。
その夜、真梨香は食後にそっと吉田に打ち明けた。
「赤ちゃんができたらしいの」
真梨香はゆっくりと吉田を見つめて微笑んだ。
ほんのり頬が染まっていた。
吉田は雷にうたれたように一瞬で強張った、そしてつい、真梨香のお腹を見た。
「ほ、ほんとなの?」
吉田は小さいかすれ声で言った。
大声を出すと幸せが逃げてしまうかのように。
「たぶん間違いないわ。明日GP(かかりつけ医)に行ってくる」
「僕が連れてったげるよ!ああ待ってたんだ!男の子かな女の子かな!」
吉田は今度は大声で叫んでしまった。
ぐっと真梨香を抱き寄せてから、そうっと身体を離した。
「だ、大丈夫?気持ち悪くないの?ほら、よく言うじゃない?」
真梨香はたぶんできたんだろうと思っていたが、巷に聞くつわりらしいものが全くないので半信半疑だった。
検査薬を試して陽性だったので、ようやく打ち明ける気になったのだ。
吉田はこの捕えがたかった真梨香、何度もあきらめかけた真梨香と、いっしょに暮らしていけるだけで十分に満たされていた。
それが、赤ちゃんを産んでくれるというのか。
(俺の幸せはあふれてしまう!)
GPではドクターがいくつか問診して、立ったり座ったり、赤くなったり青くなったりしている吉田を見て笑いをこらえていた。
めでたく妊娠が確定し、予定日を告げてドクターは「おめでとう!」と吉田夫妻と握手した。
吉田は涙ぐんでなぜかドクターにものすごく感謝して、両手で握手していた。
双子ではなく単胎妊娠らしいが、内田家がどんなに大変だったか知っていたので、吉田はほっとしていた。
(芙希さんの命の危険まで覚悟して、あの時内田泣いてたな。
あんなふうに泣く内田、初めて見た。俺ももらい泣きしたよ)
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作者名:夏葉 | 作成日時:2015年1月30日 13時