RAM ページ39
真梨香はイギリスで英国王立音楽院(RAM)に通っていた。
オーケストラに入ってフルートを吹くことだけが演奏活動ではない。
でもそれがどうしてもメインとなる仕事だと思っていた。
(その考えを少し変えてみよう。)
真梨香は状況に応じて考えを変えるという、しなやかな賢さを持っていた。
今となってみれば親に啖呵を切ったことが浅はかで恥ずかしかった。
いざとなったら私が演奏活動して麻也さんを食べさせてみせると言ったのだ。
『演奏活動して』ではない、いざとなったら『何をしてでも』食べさせると言うべきだった。
親にもそんなことわかっていただろう。
私がいつか悟るだろうと、黙って見ていてくれたのだ。
せっかくイギリスにいるのだからと思い、まずTOEFLを取り、RAMへの入学資格を整えてオーディションを受けてみた。
そして見事に合格してRAMの学生になったというわけだ。
ドイツの大学院は卒業することができなかった。
すべてを賭けたコンクールも、直前で棄権しなければならなかった。
心残りはある。
ドイツのオケにも合格しながら在籍することが叶わなかった。
どんなに無念だったかは、今も真梨香の胸の奥にしまってある。
もう一度学生となり、勉強しなおすことは、無駄とは思えなかった。
吉田は合格をとても喜び、励ましてくれた。
「また学生になって勉強続けるんだね。えらいよ真梨香ちゃん!さすがだよ!
でも身体には気をつけてね?ほんとに無理しちゃだめだよ?」
吉田はかがみこんでまっすぐ真梨香を見て、真剣に念を押した。
吉田も負けていなかった。
サッカーはもとより、英語も一生懸命勉強した。
毎日同じTV番組を見ていたら、言い回しがわかってくる。
子供向け番組や短いホームドラマが、格好の教材になった。
天気予報などは毎日大体同じこと言ってるからとてもよくわかる。
もちろんサッカー中継も見た。
(もう誰が何て悪態をついてるか、わかっちゃうぞ!)
吉田の英語はぐんぐん上達した。
真梨香は街の英語教室にも通った。
仕事の高いポジションに就くため、英文法をきちっと見直しているバングラデシュの青年。
文法しか習ってないから話せるようになりたいというトルコの女性。
Hの発音に苦労しているフランスの女の子。
教室には真剣に英語を学ぶ、様々な国の人たちがいた。
真梨香はいろんな人たちの目的や価値観を知ることができた。
吉田家の夫婦も、とても勤勉だった。
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作者名:夏葉 | 作成日時:2015年1月30日 13時