静かな夜2 ページ22
内田はかなり真剣だったが、芙希はもう死ぬほど笑っていた。
とても我慢できなくて笑い転げていた。
涙をふきながら言った。
「そ、それでね、なんとなく、この曲のスコアをちゃんと読みたくなったの。プククク・・・」
二人っきりでいた頃は、内田がソファでパソコンをいじってる時は、傍で芙希もピアノ譜や本をよく読んでいた。
背中合わせや隣に座っていて、お互いの触れる温かさを感じ合っていた。
ふたりとも黙りこくったまま、しんしんと夜が更けていくこともあった。
何も話さなくても、別々のことをしていても、お互いじゅうぶんに分かり合って満足していることを知っていた。
今ではもう、そんな時間はめったにない。
たまにあると静かすぎて落ち着かないくらいだ。
わざわざ子どもたちの息を確かめにベッドを見に行ったりする。
それでも、一番てんやわんやしていた時期は過ぎたのかもしれないと思う。
何かあるたびに気も狂わんばかりに心配し、あるかないかもわからない心配の種をすすんで探し出し、ほとんどが無駄な心配に終わりほっとする・・・
それが新米の親というものなのだろう。
心配するのが親の役目なのだろう。
「そっか、スコア読みたくなったか」
そろそろ本格的に弾きたくなってきたのかもしれない、と内田は思った。
かなりのブランクがある。
自分だったら・・・と考え、内田はひんやりとした不安を感じた。
芙希にはこのブランクが、どのくらい影響を与えているだろうか。
「そろそろ寝る?」
「そうね」
芙希は2Fに上がり、そーっとベビーベッドをのぞいて世にもかわいい寝顔に満足した。
さっさと着替えて先にベッドにもぐりこんだ。
内田が静かに服を脱いでいる。
芙希は布団を目の下までかけて、こっそりそれを見ていた。
「ん?なに見てんだよ!(笑)」
「ぃゃ、・・・・・」
「聞こえない、ちゃんと言って」
「・・きれいだなって思って・・」
内田は微笑み、芙希の頬から顎の下までをゆっくりと撫でた。
布団をめくって芙希のかたわらにすっと入ってきた。
芙希は身も心も惜しみなく豊かに与えてくれる。
内田はすっかり満足して健全な眠りに落ちる。
幸せなまどろみの中で、明日も強く生きていけそうだ、と思う。
内田にとっても芙希の傍らは、世界で一番安らげる場所なのだった。
静かな夜は、穏やかに更けていく。
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作者名:夏葉 | 作成日時:2015年1月30日 13時