モーリン ページ17
モーリンは実によくやってくれていた。
家事全般に、子守り。働き者だ。
朝10時に来て、夕方6時に帰る。
内田が休みの日は、来ない。
不定期な仕事なのに、確実にやってくれていた。
そして口が固い。
来客時にはすうっと消えて家事をしていた。
芙希が育児でまごついていると、落ち着いて優しく教えてくれた。
『その吐き方は、大して問題ではない』とか、『その泣き方はびっくりしただけ』とか、『お風呂には毎日いれなくてもいい』とか。
おかげで内田が不在で子どもが高熱でひきつけた時も、芙希は発狂せずにすんだ。
モーリンがいなければ到底やっていけなかった。
自分もアイルランドから来たモーリンは、遠い国から来た内田家に親しみを持ってくれた。
外国で一生懸命子育てしている内田たち、その双子たちに惜しみない愛情を注いでくれた。
子どもたちもモーリンが大好きだった。
内田夫妻は、そのうち子供たちはアイルランド訛りのドイツ語をしゃべりだすのではないかと思っている。
内田が既に永住権を持っているので、子どもたちは日本とドイツと、二つの国籍を得ることができる。
時期が来たら自分で選べばいいと思っていた。
選べるだけの判断力を、子どもたちがそれまでに身につけられるよう願っていた。
なぜか二人にかわるがわる夜泣きされて、慢性的に大寝不足な時期があった。
内田に寝不足だけはさせたくなかったので、主寝室には芙希と赤ちゃんたちが寝て、内田だけ追い出した。
客用寝室で一人でぐっすり眠っている内田を見て、芙希はほっとしていた。
(私は昼間、モーリンに見てもらってちょっとだけお昼寝できるもの)
ところが一週間くらいで内田は戻ってきてしまった。
4人で寝ていたのに、もう一人で寝るのは淋しいんだそうだ。
(やだね。一人でなんか寝るもんか!)
内田は芙希の傍らにしっかりもぐりこんだ。
夜泣き攻撃にもめげないパパに、芙希はひそっと言った。
「そろそろ断乳するつもりよ。そしたら、来るわ。・・・あの、気をつけてね?」
内田はきょとんとしていたが、「あ。・・うん、わかった」
(女の人はいろいろ都合があるんだな。大変なんだ・・)
子どもは持って本当に嬉しいものだが、芙希の命と引き換えにするわけにはいかない。
もう忘れていたが、芙希が危なかった時のことを思い出して内田は震えあがった。
あの真っ暗な眠れぬ夜の恐怖を思えば、夜泣き攻撃なんて、なんでもないっ!
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作者名:夏葉 | 作成日時:2015年1月30日 13時